カンヌ総括(1) 記者からはブーイングも? 明暗分けた受賞
第62回カンヌ国際映画祭が閉幕した。今年もいろいろあったカンヌを振り返ってみよう。
カンヌ国際映画祭では2種類のデイリー・マガジンがコンペ作品の星取りを載せている。英語の「Screen」は世界の映画雑誌記者によるもので、フランス語の「Film France」はフランスの映画雑誌や新聞・雑誌の映画担当記者によるものだ。
しかし、実はこれがあまり当たらない。2誌の評価が食い違うだけでなく、審査員の出す受賞作がぼろぼろの評価だったりするのもしょっちゅうだ。そんなとき、記者たちは授賞式を見ながら思いっきりブーイングをして憂さを晴らす。今年はそんなブーの声が“数多く”聞かれた年だった。
20本のコンペ作監督のうち、4人がパルム・ドール受賞者、グランプリまで広げれば8人が受賞者である。だが、監督賞を受けたのは、昨年コンペ・デビューをしたばかりで今年の作品も昨年同様記者の受けはよくなかったフィリピンのブリランテ・メンドーサ監督へ。脚本賞は、記者の反応としては“何をいまさら”のゲイ・ムービーを作った中国のメイ・ファンとロウ・イエ監督(共同脚本のようなものだという)へ。そして、2本選出された審査員賞のうちの1本は、『オールド・ボーイ』(03)の衝撃からするとちょっと首をかしげる吸血鬼映画を作ったパク・チャヌク監督へ。それぞれ記者たちの“ブーイングの標的”だった作品が選ばれている。
それに対して俳優賞のふたりは、作品には厳しい評価をした記者たちも納得の拍手を送った。主演・助演の区別をせず優れた演技を讃えるという俳優賞の趣旨が生かされた判断といえよう。今回の受賞をきっかけに52歳のオーストリア人俳優クリストファー・ワルツは脇役から主演級俳優になっていくに違いない。“A Star is Born”の瞬間を見た、わけだ。【シネマアナリスト/まつかわゆま】
⇒カンヌ総括(2)へ続く――