「日本映画の伝統と精神を発揮して」とジョン・ウー監督
豪華キャストを迎え、盛大な盛り上がりで開幕した東京国際映画祭。同映画祭では、アジア・フィルム・アワード・アカデミーとの共催企画であるスペシャルトークイベントを10月25日(日)に開催。“SAMURAI(サムライ)”賞の第2回目受賞者であるジョン・ウー監督が登場した。
ジョンは『ミッション:インポッシブル 2』『レッドクリフ』などを製作し、ハリウッドでも成功を収めた映画監督。そのダイナミックかつ華麗なる独特の映像美は、世界中で高く評価されている。
同イベントでは、映画を学ぶ学生や若手の映画人を対象に、さまざまな質問に答えた。「今後、日本からはどんな作品が出てくることを期待しますか?」との質問が飛ぶと、「年のせいか、黒澤明監督作品などの、昔の古くて美しい日本映画が懐かしい。ですが、みなさんの持つ現代感覚もとても大事。その現代的な感覚と伝統の感覚とを見事に結合することができれば、良い映画が生まれると思います。実は私は、映画を撮るとき、わざわざ新しいことをしようとは思っていないんですよ。ハリウッドでも、西洋の技術を使って、東洋の精神を表現しているんです」と、丁寧に答えた。
また、『男たちの挽歌』の中での“初めての試み”ついて語った。「撮影当時、ポリスアクションの映画は善と悪がはっきりしており、感情の部分は無視されていました。事務的な映画が多かったんです。そんな中、製作総指揮のツイ・ハークが『監督の気持ちを投影させては?』と提案。私自身の気持ち、人間の感情を入れることにしたんです。それは当時の香港では画期的で。新しいスタイルが確立されました」と、ターニングポイントとなった作品について振り返った。
そして、ジョンは“ハリウッド”について言及。「ハリウッドは製作、配給に至るまでプロフェッショナルで、全てが世界に向けられている。良いところは人材を大事にするところ。香港と同じで、忍耐力の強い人が多いです」とニッコリ。とはいえ、慣れないところもあるのだとか。「大スターが映画の編集権を持っているところは慣れませんね。キャスティングについても決定権を持っている。自分が編集しているのに、別のところで役者も編集している…、ということがあって、これは耐えられることではなくて怒ってしまいましたね。ハリウッドは名声や権力を最重要視しているところがあります」と苦言も呈した。
「私は『ブロークン・アロー』で一気に支持を得ることができました。そして、映画に精通した『フェイス/オフ』のプロデューサーに出会うことができました。そのプロデューサーは『私はジョン・ウーの映画がほしい』と言ってくれて。(作品に対して)ハリウッドは周辺が非常にうるさいのですが、そのプロデューサーのおかげで、作品を自由に好きに撮ることができたんですよ。そして、この2つの作品のおかげで、現在ハリウッドには5人しかいないといわれる、“最終編集権を持った5人の監督”になることができました」と、今の地位に至ったプロセスを説明していた。【取材・文/平井あゆみ】