安彦監督「田中真弓さんならシャアの子供時代もありだと思った」
第28回東京国際映画祭の目玉企画として現在開催中の特集上映「ガンダムとその世界」。10月25日には、1979年にスタートした1stガンダムのキャラクターデザインを務めた安彦良和と、人気声優の田中真弓がゲストに登場!
そもそも、変声期前のキャスバル・レム・ダイクン(=シャア・アズナブル)役に、なぜ田中真弓が起用されたのか?今回は、『機動戦士ガンダム THE ORIGIN I 青い瞳のキャスバル』の上映後に行われたこのトークショーから、ハイライトとなった4つのテーマに絞ってレポートする。
「僕はキャラクターを作っただけなんです」(安彦)
まず2人が初めて仕事で組んだ約30年以上も前の作品――アメリカの動物文学をサンライズがアニメ化し、82年にテレビ放送された「白い牙 ホワイトファング物語」(※未ソフト化)――からトークショーがスタート。
まだ駆け出しで事務所の養成所にいた田中は事務所内でのオーディションに参加し、主人公ミトサァ役を得た。「あれは大抜擢だったんですかね?」と真相を問う田中に対し、安彦の答えはそっけないもの。「僕はキャラを作っただけでキャスティングは吉川惣司監督が決めたんじゃないかな。『機動戦士ガンダム』への参加後、肺の病気で療養していて、そろそろ仕事をしなきゃいけないという事でキャラだけ書かせてもらいました」と意外な事実を初めて明かされた。
「後で声を聞かせてもらって『いいんじゃない?』なんて言った気がするな…」と言いつつも、安彦の頭には“田中真弓”という声優の存在がインプットされたそうだ。
「『巨神ゴーグ』のムック本を読んだのが今回の起用のきっかけ」(安彦)
続いて、2人がタッグを組んだSFアニメ「巨神ゴーグ」(監督・脚本は安彦良和)の話へ。
本作で主人公の田神悠宇の声として「声優さんの声って作ってる感じがあるんだけど、田中さんの声はすごく自然に感じられて、ナチュラルな少年ボイスがよかった」と強く推していたそう。
実は安彦が演出を務めた「星の王子さま プチ・プランス」で主人公を演じ、声優デビューした松野太紀も主人公役の候補だったのだが、変声期を終えていてダメだった。そんな話がトークショーの前日に交友関係のある田中と松野が食事をした際に話題として上がったのだとか。
さらに「『巨神ゴーグ』のムック本で田中さんと敵役のロッド・バルボアを演じた池田秀一(シャア役)さんの対談を見て、田中さんでシャアの子供役もありなんだ!」と今回の起用に至った経緯を明らかにした。
「『ガンダム』シリーズへの出演は光栄だった」(田中)
「ONE PIECE」のルフィ役や「ドラゴンボール」のクリリン役など数々の大役を演じている田中だが、実は今回が「ガンダム」シリーズへの初参加となる。
「同世代の声優さんはみんな出演されているのに、どうして私はダメなんだろうって思ってたから、光栄だった」と「ガンダム」シリーズの出演は念願叶ってのものだったそう。
「田中さんの声って中学生ぐらいが上限というイメージなんですよね。アムロが15歳で、周りはそれ以上の年齢の役が多いから回ってこなかったんじゃないの?」と、キャスティング理由について安彦監督は独自の解釈を展開。その説明には、隣で聞いていた田中も思わず納得!
「現場は重圧でピリピリしてた」(田中)
初めて参加する「ガンダム」シリーズの現場。そこには36年の歴史を誇る人気シリーズならではの独特の雰囲気があった。
「『ガンダム』の重圧というんですかね。全員が緊張してました」と田中にとってはもはや参加できる喜びよりも、キャスバル役を演じるプレッシャーのほうが大きかったそう。それはシャア役の池田秀一も同じだったようで、「『機動戦士ガンダム THE ORIGIN II 哀しみのアルテイシア』のアフレコでは、池田さんから“もう一度やらせてほしい”と話があって、撮り直したんです。僕的にはOKだったんだけど、納得がいかなかったんでしょう」と安彦監督が裏話を披露。
「いつものシャアとは違う、青年って感じが出てましたね。池田さんも苦労されたのかな?」と田中も「ガンダム」という特別な作品に携わる事への感想を語りつつ、自信作となった同作をアピールし、トークショーは幕を閉じた。
【取材・文/トライワークス】