苦汁をなめたベテランにしか出せない“味”を堪能『レスラー』―No.14 大人の上質シネマ

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苦汁をなめたベテランにしか出せない“味”を堪能『レスラー』―No.14 大人の上質シネマ

ミッキー・ローク。甘いマスクで1980年代に女性からの支持を受けたかつての人気俳優は、往年の活躍はすっかり影を潜め、近年はバイプレイヤーとして、小粒な作品に名前を見かけるレベルだったが、久々に主演として本格復帰を果たしたのがこの『レスラー』だ。

「なんだプロレスの話か」と、タイトルだけで判断してしまうのはもったいない。昨年のヴェネチア映画祭や今年のゴールデン・グローブ賞で主要部門の賞を獲得し、さらにアカデミー賞では賞こそ逃したものの、批評家らから注目を浴びた秀作なのだ。その好評価を支えているのは、ミッキー・ロークの圧倒的な存在感にほかならない。

ローク演じる主人公・ランディは、かつてはその活躍がテレビで全米に放送されるほどの人気を誇ったものの、現在は地方巡業などでひっそりと現役を続けるプロレスラー。週末だけリングに上がり続けてはいるものの、長年いじめ続けてきた身体はパンク寸前で、ある日試合後に倒れたのを機に引退を勧告されてしまう。“レスラー”でありながら、リング上よりも、生活費のために働くスーパーでの店員姿や、場末のクラブのストリッパー相手に語り明かす様が、侘びしさを掻き立てられて実に印象的。そして、この男の侘しい生き様がしっかりと描かれているからこそ、観ている者はリングという唯一の居場所に固執するランディの想いに共感させられる。

かつての人気レスラーという設定は、20数年前に人気を博したミッキー・ロークのキャリアと重ねあわせて見ることもできる。無軌道に若い頃を突っ走ってきた男が、初めて実感する老いへの恐怖。役を通り越して、身体全体から“ローク自身の感情”をも発しているかのようなリアルな姿が、ドキュメンタリー調の映像とも相まってヒシヒシと伝わってくるのだ。

あの頃はよかったと、過ぎ去りし日々にノスタルジーを抱くのもいいだろう。だが、ベテランと呼べる年齢になった者にしかない“味”を醸し出す彼の好演は、年を取るのも悪くない――そう、しみじみと感じさせてくれる。【ワークス・エム・ブロス】

■『レスラー』は、6月13日(土)シネマライズ、シャンテシネ、シネ・リーブル池袋ほか全国ロードショー

【大人の上質シネマ】大人な2人が一緒に映画を観に行くことを前提に、見ごたえのある作品を厳選して紹介します。若い子がワーキャー観る映画はちょっと置いておいて、分別のある大人ならではの映画的愉しみを追求。メジャー系話題作のみならず、埋もれがちな傑作・秀作を取り上げますのでお楽しみに。
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