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第28回東京国際映画祭の審査員会見「審査にルールはなかった」

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第28回東京国際映画祭の審査員会見「審査にルールはなかった」

10月22日から開催されていた第28回東京国際映画祭が、10月31日に閉幕。コンペティション部門の東京グランプリに輝いたのは、ブラジル映画『ニーゼ』で、残念ながら同部門に出品されていた日本映画3本は無冠に終わった。クロージングセレモニーの後、審査員や受賞者による会見が行われた。

『ニーゼ』は、1944年のリオデジャネイロを舞台に、革新的な治療に挑んだ女性の精神科医の苦闘を描いた実話に基づく感動作だ。13年がかりで完成した意欲作で、主演のグロリア・ピレスの最優秀賞女優賞と合わせて2冠に輝いた。

最初の監督が降りて、その後監督を務めたというホベルト・ベリネール監督は「この話をどうしても世に出したかった。他の監督に撮ってもらうという選択もあったけど、それではサバイブできないと思いました。1回やり始めたらやめられなくなりましたが、少なくとも最後までやって良かったと思いました」と笑顔を見せた。

コンペティション部門の審査委員長ブライアン・シンガー監督は「僕が21歳の時、大学を一学期休んで、ダウン症の子どもたちと過ごしました」と言った後、彼のいとこがダウン症で、個人的な体験が『ニーゼ』の物語と重なったと述べ、感極まり涙を浮かべる一幕もあった。

だが、審査の基準については「僕も色々なインディペンデント映画を作ってきたから、どれくらいのチャレンジがあるかはわかっているつもりだ」と語り、最優秀監督賞を受賞した『カランダールの雪』について、トラン・アン・ユン監督と熱い議論を交わしたことも述べた。

「僕はアメリカの監督だから、もっとスピーディーな作品が好みで、自分で推したいのは娯楽映画の『神様の思し召し』だった。でも、トラン・アン・ユンさんの話を聞いて、監督の立場に立った時、あれだけの環境であれだけの映画を撮るのはすごいことだと思い直しました」と笑顔でコメント。

トラン・アン・ユン監督も「かなり真っ向から議論しました。でも、話し終わった後、お互いにほほえむことができたという意味では、良い経験をさせてもらいました」とブライアン・シンガー監督とうなずき合った。

ベント・ハーメル監督は、審査について「今回は、審査においてルールのはまったくなかったです。これは好き、これは嫌いだと、オープンに語り合えました」とキッパリ言うと、プロデューサーのナンサン・シーも「確かにシンガー監督は、『ニーゼ』については個人的な体験が響いたのかもしれないけど、私はそうではなくて、作品自体が素晴らしいと思い、大いに引き込まれました」と評価した。また、スサンネ・ビア監督も「完璧な作品というよりは、今後の映画の将来において、何か新しいポテンシャルを生み出してくれる作品という点が大事」と指摘した。

大森一樹監督は、これらのやりとりを聞いて、日本の記者たちを一喝した。「すごく日本的なことだけど、要するに審査のマニュアルが知りたいわけでしょ。でも、今回、マニュアルはないってことで、私もそれを感じました。座って映画を観ると、映画には2種類ある。それは、引き込まれる映画と、引き込まれない映画です。最後の6本は、みんなが共通に引き込まれた6本で、私は今回、映画の力に改めて感動しました」。

結局、『ニーゼ』は満場一致でグランプリに選ばれたが、まだ、日本公開は決定していない。東京国際映画祭の役割を考えたうえでも、受賞作品や監督たちをバックアップしていく応援体制が必要だが、その点については、毎年おおいに課題が残る。【取材・文/山崎伸子】

<第28回東京国際映画祭コンペティション部門受賞結果>

■東京グランプリ:『ニーゼ』(ブラジル:ホベルト・ベリネール監督)

■審査委員特別賞:『スリー・オブ・アス』(フランス:ケイロン監督)

■最優秀監督賞:ムスタファ・カラ監督『カランダールの雪』(トルコ=ハンガリー)

■最優秀男優賞:ローラン・モラー、ルイス・ホフマン(デンマーク=ドイツ『地雷と少年兵』)

■最優秀女優賞:グロリア・ピレス(ブラジル:『ニーゼ』)

■最優秀芸術貢献賞:『家族の映画』(チェコ=ドイツ=スロベニア=フランス=スロバキア:オルモ・オメルズ監督)

■観客賞:『神様の思し召し』(イタリア:エドアルド・ファルコーネ監督)

<アジアの未来部門>■作品賞『孤島の葬列』■国際交流基金アジアセンター特別賞 デグナー監督(『告別』)

<日本映画スプラッシュ部門>■作品賞『ケンとカズ』

<WOWOW賞>『カランダールの雪』

<SAMURAI(サムライ)賞>山田洋次監督 ジョン・ウー監督

<ARIGATO(ありがとう)賞>樹木希林 日野晃博 広瀬すず 細田守 リリー・フランキー

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