唐沢寿明「自分のために仕事をやったことがない」
“日本のオスカー・シンドラー”を描いた歴史ドラマ『杉原千畝 スギハラチウネ』(12月5日公開)で、タイトルロールを演じた唐沢寿明にインタビュー。唐沢はグローバルな知識人で、熱い信念を胸に秘めていながら、頭の回転の速さゆえか、それとも照れからか、いつもジョークをふんだんに交えた返答で、本題をすり抜けようとする。そんな唐沢寿明の本音を探ってみたいと思った。
ポーランドで長期ロケを敢行した本作。劇中で流暢な英語セリフを披露した唐沢だが「あれは吹替だから。よく、口が合ったよね」といきなりジョークを飛ばす。「そんなに大した長さのセリフはしゃべってないんです。ただ普段、僕が使っている英会話はジャンクなので、今回は使ったことがない単語がいっぱい出てきたかな。夜中になると、舌が回らなくなってきつかったけど、そこまで難しくはなかったです」。
第2次世界大戦中、日本政府に背き、6000人ものユダヤ難民にビザを発給して彼らの命を救った、杉原千畝。本作では、千畝のインテリジェンス・オフィサーとしての意外な一面も描かれる。
メガホンをとったのは、唐沢も出演した『太平洋の奇跡−フォックスと呼ばれた男−』(11)のチェリン・グラック監督で、今回も海外キャストやスタッフの混合チームで撮影を行ったが、唐沢はそこで、改めていろんなことを感じたと言う。
「日本人はいま、日本の社会だけで生きていて、周りがほぼ日本人だから、モラルがどんどん低下している。でも、自分たちも角度を変えて、外国人だという意識をもてば、もう少し自分自身と向き合えるんじゃないかと。小さいことでも良いから、人に何かをしてあげたり、日本人の良いところは何だろうと考えたりすることは大切だと思う」。
その一方で、日本人として、もっと誇りを持った方が良いという持論も述べる。「日本人はすごいんだと、自分たちに誇りを持つべきだと思います。日本人は、何だかこそこそしている気がする。謙遜するのは良いことだし、おごり高ぶれというわけじゃないけど、媚びる必要もない。普通にしていれば良いことなんだ。だから、今回、杉原千畝という日本人が主人公として描かれる映画に出たという意味では、日本人としてのプライドをもって、恥ずかしくないようにやろうと思ったよ」。
本作をはじめ、映画やドラマなどで、数々のチャレンジをしてきた唐沢寿明。出演作を選ぶ際に、どんな点を重視しているのか?と尋ねると、唐沢の口から「よっぽどのことじゃないと自分で決めない。うちの会社が決める」とキッパリ答えてくれた。
「そもそも、自分はこれしかできないというのが嫌なんだ。それに、俺は根がすごく怠け者だから、そうやって決め込まれていかないとやれない。放っておくとずっと遊んでしまうから。うちの奥さんだけは、そのことをよく知っている。『仕事が終わると何もしないね』と言われるし(苦笑)。まあ、仕事が詰まりすぎても疲れるけど、俺はけっこう働いている方だと思うよ(笑)」。
さらに、仕事のモチベーションについて尋ねると「頼まれるから」と即答。「俺は、あんまり自分のために仕事をやったことがない。でも、そうやって、オファーされたものをやり続けてきたことが、自分の身になっていったんだと思う」。
唐沢自身は、そういうスタンスをごく自然体で受け入れている。「どんな役も挑戦しようと引き受けますよ。それが会社のためや、うちの事務所の後輩のため、誰かのためになるのならやる。この年になって、自分が前に出て『俺、これがやりたい』と言っても限界があるし、人のためにやるというのがちょうど良いんじゃない?」。
第一線を行く役者には、自身のがむしゃらな点を誇示する者もいるが、唐沢寿明はそういうことを好まないし、そこがニクイ。でも、彼の出演作は、その情熱を雄弁に物語る。『杉原千畝 スギハラチウネ』もしかりだ。日本が誇る勇気あふれる偉人の知られざる物語に、しっかりと目を向けてほしい。【取材・文/山崎伸子】