押井守が宮崎駿をライバル視する理由とは?

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押井守が宮崎駿をライバル視する理由とは?

『イノセンス』(04)、『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』(08)で知られる押井守が原案&脚本を手掛けた最新作『宮本武蔵 双剣に馳せる夢』(公開中)。

東京、名古屋、大阪と強行スケジュールで初日舞台挨拶を行った西久保瑞穂監督と押井守を直撃! 独占インタビューを行った。

本作は孤高の剣士、宮本武蔵が記した「五輪書」を軸に、実は“万能人”だったという押井独自の解釈で武蔵の人物像に迫る歴史アニメドキュメンタリー。

原案&脚本を手掛けた押井は「“宮本武蔵”といえば、(剣の道という)一芸を極めて禅の境地に達した人として描かれることが多いけど、どちらかといえば彼はレオナルド・ダ・ビンチのように“万能人”だった。そこで、彼の野望が時代の中で実現しなかったという部分も含め、今まであまり取りあげられなかった真相を描いてみたかった」と熱弁。

そんな彼の“ウンチク”がたっぷりと詰まった脚本を監督したのは、『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』(95)、『スカイ・クロラ〜』など数々の押井作品で演出を手掛ける西久保監督。「(武蔵は)巌流島の勝利をなぜ語らなかったのか?」をクライマックスに配し、エンターテインメントに仕立てあげている。

「押井の“ウンチク”も読み物としてはとても面白かったのですが、どうせならカッコイイ剣劇を撮りたいと思いドラマ部分を膨らませました。剣劇シーンでは、浪曲を用いたんですけど面白くできたんじゃないかなって思います」

劇中で“ウンチク”を語るのは、宮本武蔵をモデルにしたキャラクター“犬飼喜一(仮)”。これが押井にそっくりと評判なのだが、西久保監督曰く「想定外」だったのだそう。万能人として多くの才能を持ちながら、なかなか野望を果たすことのできない武蔵の姿は、どこか押井守の姿がシンクロする。

「本作では尺(時間)の関係で描かなかったんだけど、宮本武蔵の最大のライバルは、佐々木小次郎でも吉岡一門でもない、柳生宗矩なんだよね。同じ時代に生きながら、片や柳生は徳川家という時の権力の公認の剣法として道を極め、片や武蔵はあらゆる意味で社会的に敗北し決して王道に成れなかった。僕に言わせれば宮さん(宮崎駿)こそが、柳生宗矩。アニメ一本、鉛筆で描くことにこだわる宮さんは、道を極めて到達しているし、社会的にも成功している。彼の生き方が正しいかと聞かれると、人それぞれなんだけど。僕は芝居も演出するしゲームも作るし、アニメもやる。目的を達成するためには、それが必要っていう信念があるから。そう考えると無意識のうちに“宮本武蔵”に自己投影していたのかもしれないね」

そう語った押井に、完成した映画の感想を聞くと「チャンバラや馬を描くのは難しいんだけど、想像以上によく描かれていて驚いた。どんなに面白い“ウンチク”でも10分続くと飽きるんだけど、絶妙のタイミングでケレン味あふれるチャンバラの映像が入るから、バランスのとれた映画になったなぁって思う。誰かと組んで仕事をすることのいちばんの醍醐味は、自分でも気づかなかった“本質”に到達することなんだけど、思った以上に熱い作品になったのは西久保が監督したから。でも武蔵っていくら調べても興味のつきない人物なんだよ! いつか自分でも撮りたいね」と語った。

この夏には、ロカルノ国際映画祭(スイス)での上映も決まっている本作。海外でどう評価されるのか気になるところではあるが、まずは独特の世界観を楽しんで。【MovieWalker/大西愛】

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