食事制限に太陽光断ち。『ルーム』のブリー・ラーソンの役作りを監督が語る
第88回アカデミー賞で、作品賞・監督賞・主演女優賞・脚色賞の主要4部門にノミネートされた『ルーム』(4月8日公開)。このシンプルなタイトルから、どんな物語を想像するだろうか?実は、このルームとは、17歳で拉致されて以来ずっと監禁され、一児をもうけた母親と息子が暮らす部屋のことだ。そんな衝撃的な本作を手がけ、オスカー受賞の期待もかかる、レニー・アブラハムソン監督にインタビュー。
かなり絶望的な設定だが、エマ・ドナヒューの原作小説同様に、息子ジャックの視点から綴られていく冒頭のシーンに陰鬱さは感じられない。母親役のブリー・ラーソンとのやりとりを見ると、ごく普通の親子のようだ。でも、やがて観客は親子が置かれた状況を知り、驚愕する。そして、その脱出劇をハラハラしながら見守った後、外界に出てからは、母親が感じる苦悩も共有していく。
ブリーは、母親役を演じるにあたり、トレーニングや食事制限で体脂肪を12%まで落とし、役柄同様に太陽光や人との接触を避け、自らを追い込んで役作りをした。その気迫ある演技により、ゴールデングローブ賞、全米映画俳優組合賞、ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞、英国アカデミー賞など、すでに多くの主演女優賞に輝き、来るオスカーでも大本命とささやかれている。
レニー・アブラハムソン監督に、ブリーの演出について聞いてみた。「僕の演出は、毎回演者によって変えているよ。今回ブリーは、実際にそういう状況に置かれた時、どういう気持ちになるのだろうという、心理的なリサーチをしたかったようで、食事制限から始めたんだ。想像力だけでも役作りはできるけど、何か物理的、または肉体的な経験をしておけば、それが手がかりになったりするからね」。
監督は「素晴らしい役者は、役作りをしていくうちに、だんだんそのキャラクターになっていく」という手応えを感じるそうだ。「気がつけば、自然に役になっている。もちろん、スイッチのオンオフができることも大切だが、ブリーはちゃんとそれをすることができた」。また、監督は、ブリーの下に何度も足を運び、顔をつき合わせて入念にコミュニケーションを取って撮影に臨んだ。「彼女が映画に対してどんなアイディアをもっているのか、どんな作業をしているのかと聞いていく。そういう有機的な会話を交わすことが大事だ。また、今回は医者やトレーナーの他、彼女の役柄がトラウマを抱えているということで、そういう分野の精神科医にもお世話になったよ。撮影中も常にサポート体制を徹底させたし。やっぱり、お互いの信頼関係が大切だからね」。
また、ブリーと堂々渡り合った、息子役のジェイコブ・トレンブレイの自然体な演技も秀逸だ。監督は一体、どんな方法で、彼からあの名演技を引き出したのか。「僕自身が2人の子どもの父親なので、言ってみれば子どもとやりとりをしているような感じだ。アドリブを駆使するよ。また、子役を決して上から目線で見ないこと、操ろうとせず、いっしょに作業をしていくんだ」。
とはいえ、いろんなテクニックは駆使するという監督。「シーンによっては、そのまま説明できないものもあるから、それをわかりやすくかみくだいたり、ゲーム感覚で台詞を何度か繰り返してもらったりすることもある。また、編集で順番を変えても通じるようなカット割りのシーンについては、わざと台詞を入れ替えたりするよ。子役は、何回も同じテイクで同じ台詞を言ってもらうと、ロボットみたいになってしまうことがあるからね」。
『ルーム』では敢えて涙を過剰に誘うような演出をせず、淡々とエピソードを重ねていく。親子の演技は、まるでドキュメンタリーのようにリアルだが、それも計算しつくされたものである。「すべてを綿密に計画し、細かいニュアンスを練りこんでいった。それはたとえるなら、細やかな裁縫をするような作業だ。縫い目がわからないようにしたい。作られた世界ではなく、あたかも実在の人物がいるように見せたかった。誇張された表現の映画にしていたら、エモーショナルなインパクトは薄れていたかもしれない。僕は、自然に感情が湧き上がっていくような作品にしたかった」。
いよいよ、2月29日(月)に迫ってきた第88回アカデミー賞の授賞式。『ルーム』がどんな健闘ぶりを見せるのか、いまから心が躍る。【取材・文/山崎伸子】