前田弘二監督が語る、いま『セーラー服と機関銃』を撮るということ|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
前田弘二監督が語る、いま『セーラー服と機関銃』を撮るということ

インタビュー

前田弘二監督が語る、いま『セーラー服と機関銃』を撮るということ

先日開催された「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2016」でインターナショナル・ショートフィルム・ コンペティション部門の審査員を務め、さらに主演女優・橋本環奈と共に『セーラー服と機関銃 -卒業-』(3月5日公開)を引っさげて登壇した前田弘二監督にインタビュー。『セーラー服と機関銃』という映画の存在について、話を聞いた。

ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2016に参加した前田弘二監督にインタビュー
ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2016に参加した前田弘二監督にインタビュー

相米慎二監督、薬師丸ひろ子主演による傑作として知られる『セーラー服と機関銃』。新作として“その後”を描くという本作のオファーを受けた時の率直な感想は?

「三年くらい前に、『セーラー服と機関銃』の続編としてお話を突然いただいたんですが、正直意味がわからなくて、『え?どういうことですか?』って(笑)。時代を現代に置き換えて、いま『セーラー服と機関銃』を作るとしたらどういう映画になるか?最初は全然想像がつかなかったのですが、即答でお受けしました。いま作ることの意味のあるものにしたいという思いで、『どこに向かって機関銃を撃とうか』ということを考えました」

ちなみに本作は、1976年に製作された『犬神家の一族』から始まった角川映画の40周年記念作品でもある。

「角川映画って子供の頃に見ていた記憶が強いんですが、想像していた映画と全然違っていることもあって、いい意味で騙されていました(笑)。大人の異様な世界を無理やり見せられたような感覚になる映画ばかりだったんですよね。とんでもないものを見せられた!って。今回、その時に受けたサプライズを、違うかたちで、1本の映画のなかに詰め込めていけたらなと思っていました」

【写真を見る】
【写真を見る】[c]2016「セーラー服と機関銃 -卒業-」製作委員会

そんな角川映画の中でも『セーラー服と機関銃』は伝説的なタイトルである。傑作であり大ヒットした作品を、新たに撮ることに対する重圧はなかったのだろうか?

「もちろん、相米監督の『セーラー服と機関銃』は大好きな映画です。1人の少女が大人の世界を体験する話の中で、薬師丸さんがキラキラ輝いている。ただ、新しく作るうえで“崇めて近づく”のは違うのかなと。撮影時も変に意識しないように、かといって『あえて違うことやってます』という感じにもなりたくなくて、複雑な心境でしたね。脚本を進めていくうちに、撮りたいという欲求のほうが強くなってきたので、プレッシャーより楽しみのほうが強くなってきました」

劇中には、相米監督版へのリスペクトやオマージュと思しきシーンが散りばめられている。

「近いシーンはあります。多分、体に染み付いているから、脚本の段階で近い“におい”が、どうしても入ってくるんですよね。ただ、今回難しかったのは、相米監督版のリメイクではなく、“その後”を描いているというところ。普通の女子高生がヤクザになる話でなく、ヤクザになって、機関銃をぶっ放して、組が解散したその後…という設定なので、説明が難しい。だから、テーマに関しても相米さんとは違うアプローチができないかなと。泉が成長していく物語はもちろんですが、もやもやとした世の中に対して一人の少女が立ち上がる映画にしたかった。社会派というわけではないけれど、娯楽映画としてスカッとできる、そう見える映画になればと思いました」

映画で最も大切にしたのは、もちろん主演女優・橋本環奈の存在だ。

「昔の作品は、やはり薬師丸さんが一番輝いていた映画。その時にしか撮れない瞬間を切り取っていたので、そこはしっかりと受け継がなければと思いました。主演の橋本環奈=星泉が一番輝くように、という思いで、スタッフみんなでそこに向かっていきました」

かと思えば、学園ものとしてのシーンも
かと思えば、学園ものとしてのシーンも[c]2016「セーラー服と機関銃 -卒業-」製作委員会

現在38歳、若き才能として注目される前田監督。『婚前特急』(11)『夫婦フーフー日記』(15)などコメディタッチの作品でその手腕を高く評価されているが、監督にとっても初めての挑戦が詰まった一本となった。

「僕自身、ヤクザ映画とかアクションをやったことなかったんですが、やったことがないからこそワクワクするというか、どんな映画になるんだろう?という思いで。おそらく相米さんも当時、スタッフ含めみんなが新しいことをやろうと楽しみながら挑戦していたと思うんですよね。だから僕らもおもいっきり楽しみながら挑戦しようよと。だから、今回はカット割も決めずに現場に行ったんです。長回しとかカットを割ったりも、その場で芝居を観て生まれたことをやろうと思って。それで毎日撮っては、夜にみんなでお酒を飲んで、明日はどんな“遊び”をしようか?って」

ネタバレになってしまうため、詳細を明かすことができないが、あの“名フレーズ”の使われ方も興味深い。

「やっぱりお決まりとして入っているのですが、それこそ角川映画じゃないけども、反発したいな…と(笑)。期待を裏切るその上をいってやる!みたいな(笑)。もちろん昔とキャラクターも違いますし、テーマ性も異なるので、セリフ自体がもつ意味も変わっていると思うんですよね」

安藤政信と伊武雅刀が対峙するシーンはまさにヤクザ映画
安藤政信と伊武雅刀が対峙するシーンはまさにヤクザ映画[c]2016「セーラー服と機関銃 -卒業-」製作委員会

ついに公開を迎えた『セーラー服と機関銃 -卒業-』。監督自身にとって、どのような存在になったのか?

「とにかくあらゆることをやってみたんですよね。安藤政信さんが伊武雅刀さんの組に乗り込むシーンが初日だったんですが、完全にヤクザ映画で『これって女子高生主演だよね!?』って(笑)。かと思えば、翌日はコメディになって、次は学校のシーンで学園もの。いったいどんな映画を撮ってるんだ?みたいな…(笑)。でも、やっぱりそれがおもしろかった。ジャンルの垣根や壁を越えて渡り歩いて、その中心にいるのが初主演の女子高生。ひとつの映画の中で色々な映画を体感するというのは、自分としてもやってみたかったことなので、これまでにない挑戦ができた映画だと思います」【取材・文/Movie Walker】

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