『アーロと少年』の監督とプロデューサーが語る、クオリティー重視主義!
ディズニー/ピクサーが放つ冒険アニメ『アーロと少年』(3月12日公開)で来日したピーター・ソーン監督と、プロデューサーのデニス・リームにインタビュー。本作は監督の交代、全米公開の延期を乗り越えて完成しただけのことはあり、物語と映像共に、納得のクオリティーの作品に仕上がった。2人に、気になる製作裏話やタッグを組んだ感想についてうかがった。
重責のメガホンをとったのは、『カールじいさんの空飛ぶ家』(09)と同時上映された短編『晴れ ときどき くもり』(09)のピーター・ソーン監督。ちなみに彼は、『カールじいさんの空飛ぶ家』に登場する少年ラッセルのモデルになった人で、醸し出す雰囲気はかなり癒し系で好感度大だ。
『アーロと少年』では、地球に隕石が衝突せず、恐竜が絶滅を免れた架空の世界を舞台に、文明と言葉をもつ恐竜と、言葉をもたない人間の少年との出会いと冒険が描かれる。
恐竜と少年が、言葉ではなく、ボディランゲージを使って交流していくという点が新鮮だが、これは監督自身の実体験からも着想を得ているようだ。監督の両親は韓国移民で、英語がつたない母とは、よくボディランゲージを使っていたそうだ。
「自分自身、アメリカ育ちで英語しかできないけど、母は英語が苦手なんだ。だから、一生懸命、身振り手振りを駆使して、母の思いをくみ取ろうとしていたよ。また、母は映画が大好きで、僕をよく映画館に連れて行ってくれたおかげで、映画にほれこんでいけたのだと思う」。
デニスは、その言葉を受け「そういうズバ抜けた観察力や洞察力がいまにつながっているのだと思う。ピクサーといえども、そういう能力にここまで長けている人はいないわ」とうなずく。
監督はデニスについて「素晴らしい方だよ。僕が監督になってから、どんどん物事が動いていくなかで、デニスはこのプロジェクトを守るために、素晴らしいサポートをしてくれた。自分がストレスを感じた時もスポンジのように聞いてくれたよ」と感謝する。
デニスはILMを経てピクサー・アニメーション・スタジオに入社したという経歴の持ち主で、これまでに『ハリー・ポッターと賢者の石』(01)や『スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐』(05)などにも携わった敏腕プロデューサーだ。
「ピーターは、社内で非常に高い評価を受けている監督なの。ピクサーは新しい才能に対して積極的にチャンスを与えていく姿勢が素晴らしいけど、彼はそのなかでも特別な才能の持ち主だと思う。カリスマ性があってすごく仕事熱心だし、すべてのスタッフに対してとても謙虚なところもリスペクトできるわ」とデニスも監督をほめ称える。
また、デニスに、監督やクリエイターたちのおしりを叩くコツについても聞いてみた。「今回のピーターは、熱い情熱を精一杯そそいで仕事に挑んでいたから、スタッフ全員が彼の姿を見て、期待に応えようと一生懸命やっていたので、あまりおしりを叩く必要がなかったわ。でも、アーティストが問題に直面した時、背中を押した方が良いのか、ちょっと引いた方が良いのか、そのさじ加減はいちばん難しいところね。あとはやっぱり各自の仕事と役割、目標を明確にし、正直に伝えることが大事よ」。
監督は、デニスのプロデューサーとして秀でている点をこう指摘する。「デニスの大好きな点は、作品が可能な限り最高のものになることを、いちばん高いプライオリティとして置いているところだ。実際、締切をいかに間に合わせるかだけを考えてムチを使う人もいるからね。今回のデニスは、良いものに仕上がらないかもしれないとわかったから、公開延期にしたと思うし。そこは、ピクサーというスタジオのプライオリティでもあると思う」。
ピクサーの、一切妥協なしでクオリティ重視の姿勢は、こうしたスタッフ陣一人ひとりの高い志ゆえに保たれているものなのだろう。だからこそ、常に進化を遂げてきた。『アーロと少年』を観れば、そのことを改めて実感させられる。【取材・文/山崎伸子】