真田広之の理想の“老い方”とは?深作欣二監督との思い出も明かす

インタビュー

真田広之の理想の“老い方”とは?深作欣二監督との思い出も明かす

世界を舞台に活躍するパイオニアとして、果敢に道を切り開いてきた俳優・真田広之。93歳になったシャーロック・ホームズが登場する『Mr.ホームズ 名探偵最後の事件』(3月18日公開)では、名優イアン・マッケランと共演。物語に深みを与える重要な役どころとして、その存在感を発揮している。「外見的にも心にもどのようにシワを刻んでいくかは、昔からの自分の課題」という真田に、「理想の老い方」を聞いた。

ミッチ・カリンの小説を原作に、死を前にしたホームズが引退の原因になった未解決事件に再び乗り出す姿を描く本作。身体も思うように動かず、知力の衰えにも向き合うことになる人間味あふれるホームズが登場するが、脚本を読んで「既存のイメージをひっくり返す面白さを感じた」と真田。

「このホームズをイアンが演じて、ビル・コンドン監督が撮ったらどうなるだろうとワクワクしました。また、まさかシャーロック・ホームズの歴史の中で日本人が書かれることがあるんなんて思ってもいませんでしたから、よくぞ日本人を書いてくれたと(笑)。そこで僕に声をかけてくれたことにもすごく喜びを感じましたね」と好奇心と喜びを持って飛び込んだ。

真田が演じるのは、ホームズを日本に呼び寄せるミステリアスな男性・ウメザキ。「複雑な過去や心理を持った男で、ホームズとの関係も複雑。ホームズに憧れていて、どこか父親の面影をホームズに重ねているところもある」と語り、演じる上ではホームズとの距離感を大事にしたそう。ホームズ役のイアンについては、「オーラはもちろんあるんですが、威圧感が全くなくて。懐の深さを感じて、『どんと飛び込んでこいよ』という空気感があったので、さすがだなと。感動しました」と惚れ惚れ。

現場を離れて触れ合ったイアンの印象は「ポップなお兄さん」だと笑う。「年齢を重ねられて体力的には大変になっていくとは思うんですが、心のキャパシティはどんどん広がっていくんだなと思いました。キャリアを重ね、技術を磨き、地位を築いても、時として子どものようなチャーミングな笑顔や行動を見せるんです。パッションは少しも失っていないんですよね。ますます老いることへの憧れが強くなりました」とイアンの年齢の重ね方にも大いに刺激を受けた。

現在、55歳となった真田。「年齢に抗うのではなく、心のシワをどう刻んでいくかが課題」というが、そのためには「人間としても俳優としても目の前にあること、今しかできないことをしっかりと背負って立って生きていく。地に足をつけて生きていくことしかないと思うんです」とじっくりと語る。「そしてその先に、素晴らしい老い方ができればいい。どんな老人になるかは、今の積み重ねでしかないと思うので、諸先輩方を見習って、今を大事に生きるしかないと思っています」

ホームズは、本作で人生において忘れられない事件に挑むこととなる。真田にとって、役者として深く心に残る出会いはあるだろうか?「どの出会いがなくても今はないだろうという、毎作毎作、大きな出会いになります」と振り返りながら、「子役を終えて再デビューというときに、17歳で深作欣二監督と出会い、オーディションを受けて抜擢していただいた。その深作監督との出会いは非常に大きなものでしたね」と『柳生一族の陰謀』(78)について言及。

さらに「大きな影響という意味では、ロンドンで『リア王』の舞台に立ったのは、その後の人生において非常に大きかったです。初めての全編英語の仕事が生の舞台で、イギリスの俳優の中に混じって日本人はひとり。異文化との交流をしながら、それをミックスさせていく作業でした。誰も見たことのないものを作り上げようという難しさと、面白さをそこで一気に体験してしまったような気がして。そういったことを大事にしていきたいなと強く思わせてくれたので、『リア王』との出会いが今の活動の原点に繋がっていると思います」

世界的に活躍し、確固たる地位を築きながらも真田広之はいつも謙虚で、穏やかな海のような心の広さを感じる人だ。仕事に挑む上では「一足飛びにどこかに行けるわけではないので、少しずつでも一作ごとに力をつけて、また次のステップに進みたい。それが自分の在り方なのかなと思っています」と微笑む。まっすぐで誠実な彼だからこそ、世界中を惹きつけている。どんな歳の重ね方を見せてくれるのか、ますます楽しみで仕方がない。【取材・文/成田おり枝】

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