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坂本龍一が語る、『レヴェナント』でイニャリトゥ監督から求められたもの

インタビュー

坂本龍一が語る、『レヴェナント』でイニャリトゥ監督から求められたもの

第88回アカデミー賞で、レオナルド・ディカプリオが悲願の主演男優賞を受賞した『レヴェナント:蘇えりし者』が、いよいよ4月22日(金)より公開される。本作のアレハンドロ・G・イニャリトゥ監督からオファーを受け、壮大な人間ドラマを縁取る音楽を手掛けた坂本龍一にインタビュー!イニャリトゥ監督とのコラボレートした際の製作秘話は、実に興味深いものだった。

『レヴェナント:蘇えりし者』は、熊に襲撃され、過酷な自然にさらされながらも生き延びたハンター、ヒュー・グラスの実話を、ディカプリオ主演で映画化したサバイバル劇だ。イニャリトウ監督からは「メロディよりもサウンドを」というオファーを受けた坂本は、何よりも“間”を大切にしたそうだ。

「『もっと間を長くしろ』と言われ、どんどん空けていき、そこに風の音に聴こえるようなノイズが入っていく。それも音楽ですが、そういう自然の音との融合が、僕にとっての大きなテーマの1つでした。毎日のように綿密に話し合って、お互いの考えを擦りあわせていき、最終的には、僕と監督の考えがほぼ一致した形になりました」。

本作でイニャリトゥ監督は、『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(14)に続きアカデミー賞の監督賞を2年連続で受賞したが、2作の音楽のアプローチはガラリと違う。「イニャリトゥは、そんなに多作ではない監督で、1作、1作、映像に関しても音楽に関しても丁寧に作っていきますし、常に新しいことに挑戦している監督だと思います」。

確かに、『レヴェナント~』は、映画としてまさに“規格外”の新しい映像体験をさせてくれる。本作では、イニャリトゥ監督の2連覇だけではなく、撮影したエマニュエル・ルベツキが『ゼロ・グラビティ』(13)、『バードマン~』に続き、史上初となる3年連続での撮影賞受賞となった。

「イニャリトウの作品は、常に技術的な革新を目指しています。それは、ルベツキという相棒がいるからだとも思いますが、今回も自然光で素晴らしい精度の撮影をしています。音楽的にも同じものを繰り返さず、違うことに挑んでいく。今回も違います。『レヴェナント~』に関しては、既成の音楽的なフォーマットを一切排す、という意志がすごく強かったです」。

『レヴェナント~』は、極寒の大地で、9か月にも及ぶロケを敢行した。あるシーンの撮影では、ブリザードのため、マイナス27度まで気温が下がったという。坂本の音楽も「凍てつくような寒さの自然」を表現していった。

「ヒリヒリと寒くて痛い感じの空気感が欲しかった。直接、本作には関係ないけど、2009年のソロアルバム『out of noise』では、北極圏のグリーンランドで採集した音を加工したものを使っています。その地も本作と同じで色がなく、グレーのグラデーションだけだったので、そこに行っておいて良かったと思いました。実際、そのアルバムのなかに、イニャリトゥ監督が特に気に入ったトラックが1つあり、編集段階から使ってくれていたんですが、最終的に1か所、本編に残っています」。

坂本は、音楽を手掛けるうえで、『レヴェナント~』を何百回も観たので客観的な感想は言えないが、最初に観た時、「主人公は自然だ」と感じたそうだ。

「人間ドラマとして観ると、復讐劇ですが、復讐がテーマかというと、僕にはそうも思えない。復讐というヒューマンドラマが、あたかも自然の手のひらの小さな出来事のように感じられる。そのくらい自然は巨大で、ある意味過酷で、そのこと全体を描きたかったのではないかと、僕は思っています。

ネイティブアメリカンと白人の対立も出てきますが、それさえも大きなテーマになっていない。開拓時代の征服の扱い方も、それほど深くはないし。それよりも、イニャリトウが描きたかったのは、それを含めてもっと引いた自然の大きな力だったのではないかと。エンディングで、ディカプリオが非常に空虚な目をします。彼がこれだけ必死の思いで、雪原を這って生きてきたのに、一体何だったのだろうと思う。あれこそがテーマじゃないかと、僕は思います」。

『レヴェナント:蘇えりし者』では、雄大な大自然のなかで、這いつくばって生きるハンターの壮絶な生き様を追体験できる。ズバリ、映画の底力を実感してほしい。【取材・文/山崎伸子】

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