阿部サダヲ、殿役・羽生結弦の共演秘話を語る
感動の実話を映画化した『奇跡のリンゴ』(13)の阿部サダヲ×中村義洋監督コンビが、今度は江戸時代に実際に起こった感動秘話を描く時代劇『殿、利息でござる!』(5月14日公開)を放つ!本作ではフィギュアスケート界の絶対王者・羽生結弦が、殿様役で映画初出演していることでも話題を集めている。そこで、主演の阿部サダヲにインタビューし、羽生との共演秘話や、中村組の魅力について聞いた。
阿部が演じる造り酒屋の穀田屋十三郎は、千両もの大金を藩に貸し付け、その利息で寂れた宿場町を復活させるという奇策を思い立ち、同志を集めて奮闘していく。やがて、いろいろな真実が明らかになり、感動の渦へと巻き込まれる。
仙台藩の藩主・伊達重村役を凛とした佇まいで好演した羽生だが、実は殿様役のキャスティングは、撮影直前までふせられていたという。「びっくりしました!初めて対面した時には、もう芝居が始まっていたので。きれいだなあと見ほれつつ、思わず笑っちゃった人もいたようです。庶民は殿様を見たことがなかったはずなので、実際にこんなふうに驚くんだろうなと。そこはシーンとぴったり合っていたと思います」。
羽生が来る前までは、みんながそれぞれ殿様役は誰なのかを予想し合っていたようだ。「仙台に関係ある人だから、サンドイッチマンとか、星野(仙一)監督とか、マー君(田中将大投手)じゃないかとか、いろいろと想像していました。そしたら羽生さんでした!ぴったりでしたね。でも、僕らは見過ぎちゃって。本来、殿様を直接見てはいけないから、ひれ伏さなきゃいけないのに。所作の先生に注意されました(苦笑)」。
羽生は映画初出演ながらも、セリフは完璧に入っていて、立ち居振る舞いも殿様そのものだったと言う。「カットが違うものも合わせて4回くらい撮りました。羽生さんが『もう1回やらせてください』と言ってやったりもしましたね。すごく向上心が強い人だし、アスリートだから、負けず嫌いなのかな。終わってから『今度はスケートを一緒にやりましょう』とおっしゃってました(笑)」。
撮影は真夏だったが、羽生は暑さにもすごく耐えていたという。「カツラとかもきっと初めてだし、着物があのフル装備ですから。でも、文句も言わずにやってらっしゃった。本番では自分でお酒の銘柄を書くんですが、手も全く震えていなかった。やっぱり本番に強いんでしょうね。書き方もきれいでした。何かをやりながら芝居をするのは難しいと思うんですが、完璧でしたね。中村監督もすごいことを考えるなあと」。
中村監督の演出の魅力は、役者の芝居をすごく見てくれるところだと言う。「個々のアップはそんなに多くなくて、リアクションのお芝居を撮っていることが多いです。それを映されることはとてもうれしい。人足役の方たちもすごく活躍しているんですが、そういう役者の芝居も丁寧に撮っていくところが好きですね。遠くにいる役者の芝居もちゃんとつけていくし、役者にとって親切な監督だなと思います」。
粘る時はとことん粘る点も素敵だと言う。「小さい声でボソボソとダメ出しをして去っていきます。普段は楽しい方ですが、撮影に入って何かあると本当に怖い。でも、怖さがあるところもまた良くて。緊張感があるので、何回やるのも苦じゃないんです。逆に1回で終わるとそわそわして、心配になるくらい。カットになったシーンもありますが、相当な分量を撮ったと思います」。
本作は、「武士の家計簿」の磯田道史の近著「無私の日本人」を基にした人情喜劇。ちなみに磯田と中村監督、阿部の3人は、1970年生まれの同い年だと言う。「まったくタイプもバラバラですが。こんな同い年もあるんだなと。磯田さんはすごくよくしゃべるパワフルな方ですし。でも、同い年というのは、何かありますね。中村監督とはまたご一緒したいです」。
阿部サダヲら個性派共演陣が織りなす『殿、利息でござる!』は、まさにキャスティングの妙が光る快作だ。また、“無私”、すなわち、自分のためではなく、人のために動いたことで、幸せを手に入れた人々の物語は、まさにいま、多くの日本人たちに観てほしい感動作となっている。【取材・文/山崎伸子】