園子温監督、妻で女優の神楽坂恵への愛を語る「好きな人で撮りたかった」

インタビュー

園子温監督、妻で女優の神楽坂恵への愛を語る「好きな人で撮りたかった」

園子温監督が設立したシオンプロダクションによる第1作『ひそひそ星』が、5月14日(土)より公開される。園監督の感性をぎゅぎゅっと凝縮したような純度の高さからは、園監督の映画製作に対する新たな決意表明を感じ取ることができる。園子温監督と、本作のプロデューサー兼主演女優を務めた神楽坂恵にインタビュー。2人が二人三脚で手掛けた本作について、いまの胸の内を語ってくれた。

『ひそひそ星』は園監督が20代の時に手掛けたオリジナルのシナリオを、モノクロームで映画化したSF作品だ。宇宙宅配便の配達員をするアンドロイド(神楽坂)が、昭和風のレトロな内装の宇宙船で、人間にとっての大切な思い出の品を送り届けていく。東宝スタジオに大きな宇宙船のセットを組み、福島県の富岡町・南相馬市・浪江町でロケを敢行した。

園監督は公私共々良きパートナーである神楽坂を本作の主演に迎えるにあたり、少し躊躇したと言う。「僕は照れ屋でもあるので、神楽坂恵を出す時、少しは照れるんです。毎回、今度が最後かなと思いながら出てもらっているんだけど、今回はやっぱり彼女じゃないとダメでした」。

神楽坂をヒロインに迎えた理由は、いくつかある。「まずは特殊な人にしたくなかった。宇宙船の話なので、渋谷系の映画にしようと思ったらいくらでもできる。モデルみたいな人を使って、ストイックな宇宙船のセットを作り、気取った感じにするのはお決まりだし、面白くない。それよりも日常性、所帯じみているところも欲しかったので、僕のなかでは彼女が適していると思ったんです」。

神楽坂はプロデューサーとしても動いていた。「最初は私が出るとは思っていなかったので、裏方っぽい感じで携わっていったら、途中から『出るよ』と言われたんです」。

園監督は「実際、何人かの女優がやりたいと手を挙げていて、なかにはセールスポイントになる人もいたんですが、わざわざ自主映画でやるのに興行のことまで考えなきゃいけないのはおかしいと思ったんです。この映画は、芸術映画として好きなものを撮るわけだから、ドライな関係の人が1人でもいるのは嫌だなと思ったので。簡単に言っちゃうと好きな人で撮りたかったんです」。

おお!この日の園監督はかなり饒舌で、神楽坂に対する思いを吐露していく。「好きな人で撮ることはちょっと恥ずかしいことでもあるんですが、そんなものは乗り越えなきゃいけないなと。たとえば、スチール写真1枚1枚を見る度に、かわいいなあと思っちゃう。そういうことも含めて良かったなと。普通の女優だったらそんなことはしない。まあ、ペットみたいなものです。自分の子猫の写真とかを見て、かわいいと思うのと似てますね」。

神楽坂は、園監督の言葉を受けて少しはにかむ。「普段、一緒にインタビューを受けてもなかなかこういうことは言われません。でも、『ひそひそ星』では、うれしいことを言ってもらえますね。ずっと大切にもっていた作品なので、それに私が出るのも恐れ多いなとは思っていたんですが」。

園監督は「今回は、本当に毎日撮影で一緒だった。この映画、ほぼこの人しか出ないから。こんなに一緒だったことはないかも。また、シオンプロダクションには、僕と彼女しかいないんです。彼女が社長さんで、僕は雇われ人だから、給料をもらっています。運用も全部やらないといけなかったから大変だったね」と神楽坂をねぎらう。

神楽坂は「その時は裏方の仕事も忙しく、バタバタしていて、撮影しながら、裏で振り込みなどもしなきゃいけなくて(笑)。でも、撮影が終わってからは、本当にありがたいことで、光栄なことだったなと、だんだん思えてきました。助けてくださる人もいっぱいいましたし。すごい人たちがいっぱい携わってくれて、本当にありがたいなと思いました。みんなの力なくしてはできてないです」。

園監督が25年間温めてきた企画を、最愛のパートナーと共に形にした『ひそひそ星』。思いの丈が凝縮した本作は、繊細なのに力強いメッセージが胸に響く珠玉の一品に仕上がった。【取材・文/山崎伸子】

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