濱田岳とムロツヨシが語る『ヒメアノ~ル』での森田剛の怪演
「行け!稲中卓球部」「ヒミズ」の古谷実による人気コミックを映画化した『ヒメアノ~ル』(5月28日公開)で、森田剛と共演した濱田岳とムロツヨシにインタビュー。プライベートでも仲良しの2人は、劇中でも息がぴったりの掛け合いを見せている。そんな2人に、森田剛との共演秘話を聞いた。
ビル清掃会社のパートタイマーとして働く岡田(濱田岳)は、バイトの先輩・安藤(ムロツヨシ)から、彼が片思いをしているカフェの店員・阿部ユカ(佐津川愛美)を紹介される。そのカフェで、かつての同級生・森田(森田剛)とも再会するが、彼はどうやらずっとユカをストーキングしているらしい。やがて岡田はユカと付き合うことになり、そこから森田による惨劇が幕を開ける。
濱田が「古谷ワールドを忠実に実写化するとこういう目に遭うんだぞ!と言いたいです」とハードな作風を強調すると、ムロも「僕と岳くんがいる世界は平和な感じだけど、後半からは僕らが被害者になっていく」と語る。実際、その区切りを示すように、中盤で『ヒメアノ~ル』というタイトルが現れ、戦慄が走る。そこから、森田の凶行が始まるのだ。
濱田は「前半は基本的に楽しいシーンの流れなんです。僕が森田さんと対峙するのは、ラストだけでした。カメラが回っていない時は、お話しやすかったです」と言ったところで、ムロが「え?」とツッコミを入れる。「お話しやすかったと言っていますが、2人は人見知りなんですよ。現場で3人になっても、2人は会話をしないわけです。僕は共通の話題を探すのが大変でした(笑)」。
濱田は「役作りでしゃべらないというきれいな話だから」と言うと、ムロは「岳くんは普段、すごく話す子なんですが、話すようになるまでに時間がかかるんです。あと、森田くんは日本国民のなかでもトップレベルの人見知りですから。聞けば答えてくれるんですけどね。でも人見知りというのは、自分の世界観をもっている人でもあるので、今回の役は森田くんにとってハマリ役だなと思いました。本当に怖かったです」。
濱田とムロは、もう10年来のつき合いになる友人同士だ。濱田が「友だちと撮影するのは楽しいなと思いました」とご機嫌だ。ムロは「俺、さっき岳くんのプロフィールを見直したら、一回り違うと分かったよ。出会った時、最初の1時間くらいはちゃんと敬語で先輩扱いをしてくれたのに、1時間後には、同期と話をするくらいの勢いだったから…」と言いながらも「お芝居では、どこへ投げても、すべて良いところでキャッチしてくれる」とほめると、濱田は恐縮して照れ笑いをした。
完成した映画について濱田は「内容が内容だけに『面白いので是非御覧ください』とは言えないというか」と神妙な面持ちで口ごもる。「演じた側としては満足のいくできだし、多くの方に観ていただきたいんですが、それをひと言で何と言ったら良いのかがわからない。フィクションではあるけど、いまにも背後で起こりそうな怖さもあり、恐怖感は観終わったいまでも残っています。
それとは全く逆である前半は、日常にある可笑しさがたくさん含まれているコメディで、案外リアルな作品なんじゃないかなと。ドキュメンタリー性に富んだ作品になったのではないかと思っています」。
ムロは「観終わった直後に、すごく良い終わり方をしているなと思いました」と原作とは違うラストについて触れる。「良いという表現以外が見つけられないのが悔しいんですが、何という終わり方をするんだろうと驚きました。救われたようでもあるし、救われないようでもあるし、ハッピーでもないけど、アンハッピーでもない。また、日常の中に潜むからくりではない怖さ、理由がない怖さが存在している。そこがすごく良かったです」。
すでに森田剛の怪演が絶賛されている本作。でも、後半のすさまじい惨状が際立つのは、濱田岳とムロツヨシらが好演した前半のコミカルなパートとのコントラストによるところも大きいのではないかと思う。『ヒメアノ~ル』とは、猛禽類のエサとなる小型のトカゲを指すが、映画を観れば大いに納得させられる。【取材・文/山崎伸子】