阪本順治監督と斎藤工が対談。原田芳雄への思いを明かす
よくある普通の映画にはしたくない!そんな意気込みと気合が十分伝わってくる阪本順治監督最新作『団地』が、6月4日(土)より公開される。本作は、その年の映画賞を多数受賞した『顔』(00)の主演女優・藤山直美と阪本監督が16年ぶりにタッグを組んだ意欲作。そこに旬の俳優・斎藤工も参戦した。阪本監督と斎藤にインタビューし、撮影裏話から亡き名優・原田芳雄のエピソードまで、いろいろな秘話を語ってもらった。
『団地』は、家業の漢方薬局を畳んで、団地に引っ越してきた山下ヒナ子(藤山直美)と夫・清治(岸部一徳)が、そこで繰り広げる珍騒動を描いた異色作。斎藤は、ヒナ子たちを訪ねてやってきた漢方薬局の顧客・真城役を演じた。
念願の阪本組初登板となった斎藤は「職人が多い現場でした」と充実した表情で語る。「阪本組は、みんなが台本に向かうという意識がすごく高いです。役者だけではなく、阪本組の制作チームもそこをめがけている感じで、一切寄り道をしない。監督の作品の根っこをみんなが理解しているという現場でした」。
コメディセンスが冴え渡る本作だが、阪本監督のコメディ演出におけるこだわりとは?「原田芳雄さんの言葉で『面白いのその上におかしいがある』というのがあって。シチュエーションコメディじゃなくて、人がおかしいというのが、結果的に喜劇につながるということなんです。そういう喜劇を目指しました。当然、登場人物を担う俳優さんには、おかしい人をキャスティングしました」。
「光栄です」と微笑む斎藤に、阪本監督は「要するに斎藤くんは、一生懸命やっているおかしみの最たるものです」とフォローする。
メインキャストは、藤山直美、岸部一徳、大楠道代、石橋蓮司という阪本監督が最も信頼する布陣だ。「藤山さんはスケジュールが夏頃ぽっこり空きそうだと聞いて、すぐに打診しましたが、引き受けてくれて本当にうれしかったです。岸部さんたち3人は、原田芳雄さんも含めてよく飲んだり食ったりしている仲でした。この3人には、余計な演出がいらないんです。僕の奇天烈な世界を、何とかわかってやろうと思ってくれる先達の俳優さんたちで、藤山さんと共演してもらうのならこの3人かなと。みんなそれぞれ楽器がバラバラで、音合せもしないでドンとやるのに、ちゃんと1つのセッションになる。斎藤くんには違う楽器で参加して、不協和音を入れてほしかったわけです」。
斎藤はそれを受け「なるほど」と感心する。阪本監督は、斎藤にオファーする前に、彼のブログやニュースをチェックしたようだ。「単純に映画が好きで、昔の映画もよく観ていたし、先達の俳優さんに対するリスペクトも感じました。加えて、藤山さんたち4人に加わった時、ちゃんと遊ばれてちゃんと愛されるかということも考えたんです。やっぱりあの4人は、自分たちに似たニオイの人を好むから」。
斎藤も原田芳雄をリスペクトしていたようで「みなさんが現場で、原田芳雄さんが生きていたら団地のどこにいるだろう?屋上でギターを弾き鳴らしているんじゃないか?という話をされていたと伺いました。『いま、この世にいない』というのはこの作品のテーマにもなっていますが、芳雄さんは『大鹿村騒動記』(11)で途切れたんじゃなくて、それがまだ線になってつながっているんだと思って、うれしくなりました」。
阪本監督はそれを聞いて「いま思い出した!斎藤くんがブログで、原田芳雄さんについて書いていて、芳雄さんを同じ俳優さんとしてリスペクトしていたとわかったからだ」と、キャスティングの理由を補足する。
阪本監督は「ここ何年間で芳雄さんと会えなくなったのは、いちばんの悼みです」と改めて原田芳雄を偲ぶ。「まあ、いまがそういう時代でもあると思いますが、本作はその時悲しんだり悼んだりことを、こういうふうに考えれば少しは安らがないかな、という提案でもあります。僕は、台本に原田さんの写真を入れたまま現場にいました。晴れ男なので、絶対に晴れるから。一度、雲行きが怪しくなったので、その写真を三脚に置いていたら、撮影部がぽろっと落としてしまって。その後、大雨でした(苦笑)」。
阪本監督の一言一句にうなずき、終始真剣な表情で聞いていた斎藤工。阪本監督の狙いどおり、彼は16年ぶりの藤山直美主演映画に、見事なスパイスを与えている。これぞ、キャスティングの妙であり、彼らが織りなす軽妙なセッションに心が躍った。【取材・文/山崎伸子】