アニメ界の実力派が結集した夏の注目作―No.21 大人の上質シネマ
ファミリー向けのアドベンチャー作品が並ぶこの夏休みシーズン、“大人”にこそ強くオススメしたいのが『サマーウォーズ』。『時をかける少女』(06)の細田守監督、「新世紀エヴァンゲリオン」シリーズの貞本義行によるキャラクターデザインというコンビで、注目を浴びるアニメ映画だ。
アニメファン向けのキーワードが並ぶ作品だけに、ちょっとマニアックなストーリーなんじゃないかと腰が引けそうだが、実はこの作品における最大のテーマは“家族”であり、個性的な登場人物たちが織り成すヒューマン・ドラマとして、見応えのある物語になっている。
憧れの先輩・夏希に婚約者のフリを頼まれ、彼女の実家を訪れた高校生の健二が主人公の本作は、仮想世界で起きたトラブルの主犯という濡れ衣を着せられ、ピンチに陥るというストーリー。そして、そんな健一を救うのが夏希の親族である陣内家の人々だ。
彼らは由緒正しき旧家の当主たるおばあちゃんの誕生日を祝うために、全国から長野の田舎へと集まってくる。親戚一同が顔を揃えれば、世間話をし、それぞれの悩みを打ち明ける。酒が入ると「うちの家系は……」なんて毎度同じ事を言う親戚のおじさんやおばさんの姿を眺めているだけでも、どこか懐かしさが感じられるはず。そう、こうしたディテールの細やかさが、“家族”というテーマ性を引き立たせ、独自の世界観を支えているのだ。
陣内家の人々は、健二が夏希の偽の恋人だとわかっても、おばあちゃんが認めた人物として受け入れ、彼に協力し、みんなで力をあわせてトラブル解決に挑む。そんな家族の絆や温かさといったものは、失われつつある、日本に受け継がれる理想の家族像と言えるだろう。
古きよき情緒あふれる日本家屋や、舞台となる長野の美しい自然を手がけるのは、『もののけ姫』(97)や『千と千尋の神隠し』(01)といったジブリ作品で美術監督を務めた武重洋二で、背景画の美しさも作品の趣深さを際立てている。
核家族化がより一層進むなかで、見失われつつある家族の絆というのものを再確認させてくれる本作。この作品を見れば、幼い時に田舎の実家を訪れたような懐かしい気分が味わえるはずだし、もし、遠方に親族のいる方は思わず子供を連れて出かけたくなるような気分にさせる夏休みにぴったりな一本と言えるだろう。【トライワークス】