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角川映画を知り尽くした男、現在の映画宣伝をバッサリ斬る

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角川映画を知り尽くした男、現在の映画宣伝をバッサリ斬る

角川映画祭の開催を記念したトークイベントが8月7日、角川シネマ新宿で行われ、書籍「角川映画1976‐1986」の著者、中川右介が登壇した。“角川映画を知り尽くした男”中川氏は、「アンチ貧乏と人情が角川映画」と自論を展開した。

日本とアメリカを舞台にし、戦後30年という歳月の流れとともに人間の生きざまを描く『人間の証明』(77)上映後ということもあり、同作を中心にトーク。当時の日本映画としてはまれなニューヨークロケが敢行され、ジョージ・ケネディが過去に一物を持つ人物を演じた。ケネディの出演について、中川氏は「ワンカットで特別出演するとかではなく、刑事役の主要人物として出て、元々日本人が書いた脚本を英語に翻訳し、それをまた日本の字幕の大家、ミステリーの翻訳家でもある清水俊二が日本語に翻訳するという二重三重のおもしろさがある」と当時は衝撃を受けたようだ。

「読んでから見るか、見てから読むか」をキャッチコピーにした書籍との連動や、当時はまだ珍しかったテレビでの宣伝といったメディアミックス展開の先駆けともなった角川映画。現在主流となった映画宣伝のはじまりを、中川氏は「『犬神家の一族』(76)も当時の日本映画としては大宣伝だったんですが、『人間の証明』は何か月も前からテレビCMうって、角川映画宣伝方式の本格的なはじまり」と振り返った。角川映画の特徴は「貧乏と人情を描かなかった」といい、「貧乏な方を肯定的に描くのが日本映画だったけど、日本映画が描いてなかったものを描いた」と自身の目線で語る。

書籍執筆にあたり、「ネット時代でもあるので、いろんな人が自分のブログなどで書いていることがあって、それについてはどこまでが本当かわからない。特に裏話的なもの、週刊誌とかでも出てくるけど、それをどこまで書くか。入れていくと際限なくなる。でも書かないと“お前は何も知らない”と言われる」と苦悩を明かし、「オフィシャルになっているものだけでまとめてみよう。表に出ているものを整理して、十分おもしろいよと、それを吹っ切るまでが大変ですね」と心情を語った。

書籍内ではキネマ旬報のベスト10と、読者のベスト10を明記し、客観性をもたせた。「その2つと興行成績がいかに一致しないか(笑)。でもあの頃の方が重なりがあって、今はキネマ旬報と興行成績のベスト10が1作品もダブらないという状況が続いている」とし、「不思議(な結果)ですよね。ランキング3種類を眺めれば、結局一番正しいのはお金を払っているお客さん。本能的におもしろいものは見つけるものなんだなというのがわかる。お客さんはあなどれない。大宣伝しても当たっていないものは当たらない」とバッサリと斬った。

角川映画祭は9月2日(金)まで角川シネマ新宿で行われ、48作品を一挙上映している。【Movie Walker】

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