RADWIMPSと新海誠監督が振り返る『君の名は。』誕生秘話
新海 誠監督が手がける長編アニメーション映画『君の名は。』(8月26日公開)。田舎町で暮らす女子高生と都会に住む男子高校生が、お互いの心と体が入れ替わる不思議な夢を通じて、惹かれあう姿を描く本作。その劇中音楽の全てを担当するのは、多種多様な音楽性で多くの人を魅了するバンド・RADWIMPS。制作初期から作品に携わってきた彼らが、「前前前世(movie ver.)」など27曲を生み出すまでの綿密なやり取りを新海誠監督と共に振り返る。
RADWIMPSは別の星から来た人たちみたい(新海)
新海「いちリスナーとして、RADのファンでした。遠い世界にこんなにすごい人たちがいるんだ、と。まさにその言葉通りで、同じ世界に生きてる人だとは歌を聴いていてもなかなか思えませんでした」。
野田「僕も監督の作品は観ていて、いったいどんな人なんだろうって思ってました」。
武田「僕は監督の作品をすべて観ていたんですが、高校生の時に『ほしのこえ』を見て、1人で作られたと聞いて『アニメって1人で作るもんじゃないだろ…』って。あのクオリティを1人で作り上げる、とんでもない人がいるなと」。
新海「その時はもうRADだったんですか?」
武田「いえ、まだ普通の高校生でした(笑)」。
新海「最初に洋次郎さんと会いましたが、歌のイメージにピッタリの人でした。同じホテルのラウンジで話はしているんだけど、立っている空間が違うというか、別の星の人みたいというか。やっぱり曲のイメージが強くて、僕たちが普段暮らしていてもわからない、宇宙的な秘密みたいものを知っている人たち、自分たちが宇宙とつながっていて、そこから流れてくる特別な情報を歌にしている人たちっていう感覚があって。今でもそのイメージは変わらないですね。こうして話していても、違う星の人たちみたいですもん」。
野田「出会って、2年近くもそう思い続けてるんですか?(笑)」。
新海「はい(笑)。こういう音楽は聴いたことがなかったし、こういう日本語の使い方も知らなかったので、この人たちはすごいなと。ただ、その時点ではまだ、一緒に何か作品を作ると想像したことはなかったです。RADのみなさんはアニメーションの音楽を作るなんて想像したことありました?」
野田「僕らもなかったですね。だからすごくいい経験になりました」。
新海「想像もできなかったことって、自分がやっていて一番驚けることというか。そこがよかったし、人生の中でも一大イベントっていうくらい、特別な体験でしたね」。
映画を通して伝えたいものが、曲に含まれていた(新海)
野田「脚本段階で、まずは感じたままに作り始めて、先に3曲くらいお渡ししました」。
新海「『なんてものができてしまったんだ!』と思いました。まだ制作途中の『スパークル(movie ver.)』と『前前前世(movie ver.)』が入っていたんですが、ドキドキしながら聴き始めたら座ってはとても聴けない。たまらず外に出て、歩きながら聴いたんですよ。そうしたら雨が降ってきて、そのまま走りながら聴いて…泣きそうだったというか、ほとんど涙が流れていましたね。すごい体験でした」。
野田「本当にうれしいですね」。
新海「自分が作った脚本に対して、アンサーみたいなものをいただくのが初めての体験だったんで。『あ、もう映画のピークが来たな』って。作品制作中にすごくいい瞬間っていくつかあるんですけど、まだ絵コンテを描き始めたくらいの段階ですからね」。
野田「しかし、脚本にはすでに『君の名は。』の世界が詰まってましたよ。今までの監督作とは違った、解放に向かっている感じというか、解き放たれている世界が。そこに背中を押された感じがしましたね。あとやっぱりラブストーリーなので、僕なりに、この経験を最大限に生かして、今歌えるラブソングを作りたいという気持ちでした。いただいたものを僕の中でいったん熟成させてお渡しする作業でした」。
新海「すごいなと思ったのは、映画を通して伝えたいものが、一番最初にもらった曲の中にシンプルな形で含まれていたんですよ。例えば『スパークル』の“うつくしくもがくよ”っていうひと言であったり。『あ、僕はこういう映画を今回作りたかったんだ』と言うのを、改めて気付かせてくれたんです」。
バンドとか関係なく聞いてほしい(野田)
武田「RADの中で僕が曲やトラックを作るというのは今までなかったので、全部が初めての体験でした『何からやったらいいんだろう?』ってところから出発しましたね。僕が任されたパートが宇宙系、アンビエント系というか。そういったジャンルの音楽だったのでシンセサイザーの音源から探す作業でした。一個一個それこそ手探りで、もう、すべてが大変でした」。
野田「結果的にあのパートの割り振りは合っていたよね」。
新海「話し合われたんですか?」
野田「いや、あの割り振りを思いついた時点で、俺の功績が大きいですよ(笑)。適材適所感がハンパじゃなかった。(武田の)オタク気質な感じとかよく出てるし。逆にクワ(桑原)は瞬発型だから、弾いてなんぼって感じのスタイルだし」。
桑原「今までになかった経験でしたから大変なこともあったんですけど…。まぁ、普段バンドでやってる時は、洋次郎が最終判断を下すんですけど、今回は強大なラスボスが…」。
野田「手ごわいラスボスが(笑)」。
桑原「大丈夫だろうと余裕しゃくしゃくで待っていたら、監督からまさかのNGが(笑)」。
新海「すいません(笑)。だんだん楽しくなってきちゃって。しかし、でき上がったものを聴くとひとつのバンドじゃもはやないですよね。この人たちは何者なんだろうって。映画を観ると余計に思います」。
野田「それ、最初に目指していたところでもあるんです。バンドとか関係なしに聴いてほしいので、意図的にバンドという枠を取っ払いました。楽器も普段使わないものをあえて使ったりして。あと監督自身が音楽好きなので、話がしやすかった。やり直す際の指示も的確でした」。【取材・文/松岡良和、撮影/西山輝彦】
【RADWIMPS(らっどういんぷす)】野田洋次郎(ボーカル、ギター、ピアノ)、桑原彰(ギター)、武田祐介(ベース)、[山口智史(ドラム)は持病の悪化により活動休止中]/01年に結成し、05年「25コ目の染色体」でメジャーデビュー。既存の枠を超えた音楽性や、恋愛から死生観までボーカル野田がつづる歌詞が、若者を中心に大きな支持を受けている。
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