“ハチ”を主役として際立たせる名匠の演出術に注目―No.23 大人の上質シネマ
渋谷駅前で行きかう人々を見守り、銅像として多くの人々に親しまれている忠犬ハチ公。ハチ公が銅像になるきっかけとなったエピソードを映画化し、大ヒットを記録した『ハチ公物語』(87)を下敷きに、リチャード・ギア主演でハリウッドにてリメイクしたのが『HACHI 約束の犬』だ。
小さく幼いハチは、日本からアメリカへ輸送される途中で檻が破損し、よたよたと歩いていたところを大学教授のパーカー(リチャード・ギア)に拾われることになる。それをきっかけに、大学へ通うパーカーの送り迎えはいつしかハチの日課となり、パーカーが亡き人となった後もハチは決まった時間になると駅へ通い続ける。
設定を大正時代の日本から現代のアメリカ東海岸へ移しながらも、大学教授と彼に拾われた秋田犬との深い絆を描くという基本的なストーリーに変わりはないが、ハチを立派な主役として際立たせた演出面に注目してほしい。
メガホンを執ったのは、『サイダーハウス・ルール』(99)や『ショコラ』(00)など、人と人とのつながりや家族をテーマにした作品で世界中の人々の涙を誘ってきた、名匠ラッセ・ハルストレム。パーカーが投げたボールを決して取りに行こうとしないハチの頑な性格や、パーカーが亡くなった後も毎日欠かすことなく駅へ送り迎えに向かうハチの飼い主への愛を事細かに描き、そのキャラクターを際立たせ、動物でありながらも深く感情移入させてしまうのはさすが。また、色調を抑えた低い位置からのハチの視点を時折挟み込むなど、その斬新な映像も愛犬家を自称するハルストレムならではと言える。
これまでにも犬や動物が登場する名作は数多く生まれているが、名匠の手により、また新たな名作がそのジャンルに加えられたといってもいいだろう。【トライワークス】
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