寂しい南極でも“おいしいご飯”で心ホンワカになる映画―No.24 大人の上質シネマ
転勤先は南極。任期は1年半――いきなりこんな辞令が下ったら、あなたはどうするか? 負傷した同僚に代わって、南極へやってきた料理人の奮闘を描いたエッセイを、人気上昇中の堺雅人を主演に映画化したのが『南極料理人』である。
堺扮する西村は、南極のドームふじ基地で越冬する8人の測候隊員の調理担当として着任する。太陽が沈まぬ白夜が4か月続く厳寒の地で、隊員たちはそれなりに“究極の極地ライフ”をエンジョイしているが、一番楽しみにしている元気の源はやっぱりご飯なのだ。
西村は備蓄された冷凍食品や缶詰といった限られた食材から、毎日毎日おいしい料理作りに腕を振るう。おにぎりに味噌汁というシンプルな昼食から、フランス料理のフルコースまで、何でもござれ。時には“伊勢エビのフライ”や肉の塊を丸ごと火あぶりしたローストビーフなど強烈インパクトなメニューも。この献立には隊員たちと西村の愉快なやりとりが経緯としてあるのだが、食事シーンもまたユーモラス。まるでエッセイを読んでいる途中でちょっと吹き出すような感覚だ。隊員たちが食べる姿を、西村は楽しそうに見守る――彼の料理がホンワカ楽しいひと時を生みだす。
とはいっても、やはり隔絶された地。楽しい時もあれば寂しくなる時だってある。携帯メールが普及した現代とは違い、舞台となる1997年は通信環境も整っていない。コミュニケーション不足になり荒んだ隊員たちに、西村はご馳走を作って心とお腹を温める。時として隊員たちは、夜空に輝くオーロラを無視して、西村が作った特製ラーメンをむさぼる。彼らにとってはラーメン>オーロラ。それほどご飯は、心を満たすモノなのだ。
そんな心を温めるご飯の数々は、『かもめ食堂』(05)や『めがね』(07)などのスローライフ・ムービーも手がけたフードスタイリスト飯島奈美と、彼女と共に活躍する榑谷孝子によるもの。食べても観ても“おいしい”と思えるメニューのオンパレードに、鑑賞後は心ホッコリ。さらに南極の涼しげな世界観に、ほてった体はヒンヤリ。後は、心地よくお腹を満たせば、幸せいっぱいになれる作品である。【トライワークス】