妻夫木聡、韓国俳優との共演で感じた“可能性”とは?
妻夫木聡が、日韓合作映画『ノーボーイズ、ノークライ』(8月22日公開)で、家族を養うために韓国人ヤクザの手下として働く主人公・亨を好演している。本作で共演してすっかり仲良くなったという、来日を果たした韓国の若手ブレイク俳優一番手のハ・ジョンウとともに話を聞いた。
妻夫木にとって、韓国との合作は楽しみでもあり、プレッシャーでもあったようだ。「違う言語を理解した上で話さないといけない、というのは自分にとって新しい挑戦でした。果たして日本語以外のセリフでも、僕の中に感情が生まれるのか? さらに、それを聞いて僕の中で生まれたものをはき出せるのか? 最初は不安でした」。
だが、すぐに杞憂に終わる。「現場でハ・ジョンウさんを相手に芝居をした時、これまでとは全く違う、新しい感情が湧き出てきて、すごく気持ちよかったんです」と語るとおり、韓国から日本へ“荷物”を運ぶ闇の仕事を通じて知り合ったヒョング(ハ・ジョンウ)との交流を、骨太な演技で体現している。
ハ・ジョンウは、『チェイサー』(08)の犯人役で一躍韓流トップスターの仲間入りを果たした注目の演技派だ。妻夫木の韓国語に「全く違和感なかった」と太鼓判を押しつつ、現場でのやり取りを説明してくれた。「これまでの経験から、外国の俳優と共演する場合、リアクションが大切だということが分かっていました。事前に準備することよりも、韓国語を話す聡の演技に対して私が、きちんとサポートするリアクションを出す。つまり、言葉よりも五感で受け止めようと心掛けました」。
その結果、ジョンウは「情を持って集中していれば言葉は関係ないということ。人間にはテレパシーがあるんです」と自身の演技論を展開。この映画は一種の“バディムービー”だが、そうやってシーンを重ね、オフの時間も一緒に過ごすことで、2人の間にも友情が芽生えていった。ロケ地の新潟では、毎晩のように酒を酌み交わし、一緒に海水浴までしたという。
釜山映画祭に足を運んだ際に韓国の人たちのパワーに触れたことが、合作映画への出演を促したと言う妻夫木は、「これほど人と人がぶつかり合う映画って多くないと思うので、そういうところを見て、感化されてほしい。見てもらった人の人生が、1人でも少しだけでも変わると嬉しいですね」と主張する。友情とは、なあなあのゆるい関係からではなく、“ぶつかり合う”ことで、命を投げ出せるほどの深く強固な絆を築けるものだということを描いた映画でもあるのだ。
妻夫木は続ける。「亨とヒョングが出会ったように、この映画で僕はハ・ジョンウさんと出会いました。国境を超えて、これだけ仲良くなれたからこそ、いろんな可能性を感じることができた。アジアはもっともっと進化していくに違いないと、すごく思いましたね」。
それに応じてジョンウも「両国が映画を通して将来的にもっともっと良い関係を築けるのではないか。お互いの良い面を伸ばすことで、最良になる。例えば製作費も抑えられて、効率も上げられるようなね。この映画で、そういう新しいビジネスモデルを作り上げたのではないでしょうか」と同調。そして、最後にこう付け加えた。「この映画で何を得たか?と問われれば、“聡という親友ができた”と答えるでしょう」。
個々の友情が、やがてアジアをつなげ、映画をつなげてゆく。この映画を根幹で支えている妻夫木とハ・ジョンウの友情は、アジア・グローバルな映画の未来をも切り開く橋渡しとなるのかもしれない。【取材・文/外山真也】