【シッチェス・カタロニア国際映画祭】過酷な現代社会が良くわかる韓国産ホラー

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【シッチェス・カタロニア国際映画祭】過酷な現代社会が良くわかる韓国産ホラー

やはりゾンビだの怪獣だの災害だのというのは環境なのであって、描かれるべきはその環境下で繰り広げられる人間ドラマなのだ――。

7日から開催したスペイン、シッチェスのファンタスティック国際映画祭で、夜の開会式に先がけ実質的にオープニングアクトになった『釜山行き(Train to Busan)』(ヨン・サンホ監督)を見て、改めてそう思った。超人気ドラマ「ウォーキング・デッド」もゾンビはすっかり背景に引っ込み、前面に出て来るのは人間同士の争いばかりだが、この作品も同じである。

とはいえ、それはゾンビ部分が生ぬるいとか怖くない、という意味ではない。

特急列車のスピード感に合わせた展開で息もつかせず、数秒の沈黙の後にドンといきなり死角から襲って来る演出で、私の隣にいたスペイン人女性は何度も椅子から跳び上がっていた。ホラーとして十分怖く、スプラッタとして血の量も十分である。

ゾンビは『ワールド・ウォーZ』タイプで、凶暴なだけでなく驚異的な運動能力を持つ。が、頭が悪く、共同作業もできない。

『ワールド・ウォーZ』ではゾンビが群がって高い塀を乗り越えたりしていたが、あんな蟻のような集団行動を『釜山行き』のゾンビはしない。ただ群がって殺到して将棋倒しになるだけ。そのリアリティある知性の不在こそ敵の弱点であり、そこに人間が勝利する余地が残っているわけだ。

この作品を見ると、現在の韓国人が抱く危惧が良くわかる。

利己主義がはびこり夫婦や親子など血縁関係が崩壊しかけ、年長者への尊重や寛大さは失われ、社会的な弱者は救済されなくなっている。そんな過酷な社会にさらに苛烈なゾンビが襲来するどうなるか?

登場人物に、ファンドマネージャーや政治家らしき人物という社会的強者、老人と妊婦、子供、浮浪者といった弱者が混じっているのはもちろん偶然ではないのだろう。団結し頭を働かせ犠牲的な精神をもって危機を乗り越えるべき人間が、ゾンビ並みに我先に行動しゾンビ並みの脅威になるのである。

ホラー&スプラッタであって社会も良くわかる。それでいてモラリストではないから人がバンバン死ぬ。韓国社会の問題点がそっくりそのまま当てはまる日本での公開が待たれる。【取材・文/木村浩嗣】

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