小松菜奈と菅田将暉が「身を削るような現場」と『溺れるナイフ』を振り返る!
ジョージ朝倉の青春コミックを映画化した『溺れるナイフ』(11月5日公開)で、ほとばしるティーンエイジャーの恋と衝動を体現した小松菜奈と菅田将暉。本作は『5つ数えれば君の夢』(14)で突出した映像センスを魅せた山戸結希の劇場用長編映画デビュー作だ。小松と菅田にインタビューしたら「身を削る」「過酷」というただならぬフレーズが飛び出した。
東京で雑誌モデルをしていた美少女・望月夏芽(小松菜奈)は、田舎町に引っ越すことに。夏芽はそこで、神主一族の跡取りである長谷川航一朗=コウ(菅田将暉)と出会い、強烈に惹かれていく。
『ディストラクション・ベイビーズ』(16)でも共演した2人。同作では菅田が小松を殴るというシーンがあり、現場ではあまり交流しなかったそうだ。小松は「『ディストラクション・ベイビーズ』が先だったので、順番的にはすごく良かったと思います」と言うと、菅田も「確かにそれを経ての流れというのは良かったですね。1回殴り合って、今度は心で殴り合う感じだったから」とうなずく。
小松は菅田が演じたコウについて「漫画から出てきたよう」と表現する。「菅田さんは追いかけたくなる存在というか、テレビや映画で主役級のものをやれば目を引かれるし、主役を支える役をやってもちゃんと存在感を残す人。私はただただ必死に追いかける日々でした」。
小松は『溺れるナイフ』について「別の精神力を使いました」と告白。「私はみんなより早めに入って撮影していましたが、日に日にどんどん顔が死んでいきました。今回の現場は過酷というか、言葉にできないような現場でした。だから菅田さんは現場でコウちゃんとして私を助けてくれたんです。共演者やスタッフさんに支えてもらえないと生きていけない状態だったから」。
菅田が後から現場に入った時、小松の表情から不穏な空気を察知したと言う。「何があったんだ?と思いました(笑)。それだけ身を削る現場なんだなと。まあ、夏芽はコウに振り回される役だし、余計に大変だったんじゃないかと」。
「僕は支えたというよりは、ふらついた時に手を差し伸べる場所にいられればなと思っただけで。でも、すごくいい経験だったと思うよ」と優しく話す菅田。
「自分が小松さんと同じく19歳で出演した『共喰い』(13)の時の自分と勝手に重ねていました。その時の僕なんてあんなもんじゃなかった。毎日怒られていて、訳も分からずに生きていたから。でもその時、自分が俳優部の真ん中に立って、俳優の仕事がどういうものなのかを感じられたんです」。
小松は山戸監督のたくましさにうなったそうだ。「おっとりしてそうに見えるけど、男性にも負けないような強い精神力があり、『私はこれを撮りたい』というものを絶対に曲げないんです。それはすごく素敵なことで、実際その日に撮り切れないこともありました。現場ではまるで監督が夏芽ちゃんのようで、コウちゃんとのシーンにはすごく燃えていました」。
小松は演じた夏芽について「自分にないものが備わっていたので、とても魅力的に見えました」と言うと、菅田も「僕もコウちゃんがうらやましかったですね。『あの海に入っちゃダメ』と何年も昔から伝わっているところに行って1人で泳いでいる感じとかは人間的な魅力を感じました」と言う。
菅田は「10代の頃の自分にコウちゃんを見せたい」と言うが、その心とは?「コウちゃんを演じて感化されたのか、たまたま僕がそういう時期だったのかはわからないけど、こんなに高校生の役に生き様みたいなものを感じたことはなかったです。コウちゃんは普通にそこで生まれて生きているだけなのに、語り継がれるような人生なのですごいなあと思いました」。
小松は夏芽役を経て精神的に強くなったと感じた。「固まったお芝居はダメだなと思うし、ちゃんと柔軟性がなければいけないなとも思いました。10代ギリギリの時期にこの映画に出演できたこと、山戸監督とお仕事ができたことは自分のなかで大きかったです」。【取材・文/山崎伸子】