小松菜奈と菅田将暉が『溺れるナイフ』で中高生役「ギリギリ?アウト?」
ティーンエイジャーならでは危うさときらめきを捉えたジョージ朝倉の青春コミックを、新進映像作家・山戸結希が映画化した『溺れるナイフ』(11月5日公開)。本作でナイフのように傷つけ合いながらも激しく求め合う男女の恋を、高い熱量で体現したのが小松菜奈と菅田将暉だ。2人にインタビューし、壮絶だったという現場を振り返ってもらった。
雑誌の美少女モデル・望月夏芽(小松菜奈)は、引っ越した田舎町で神主一族の跡取りである長谷川航一朗=コウ(菅田将暉)と出会う。傲慢だが人を惹きつける魅力のあるコウに、夏芽は心を奪われる。
夏芽とコウが出会ったのは15歳だ。小松が「中高生の役はこれがギリギリ?いやアウトかも?」と苦笑いすると、菅田は「まだあるかもよ。いや、中学生役はもうないかな」と頭を傾げる。
夏芽たちの思春期の恋は見ていてまぶしくもあり、純粋さゆえに怖さも感じられる。小松は中学生から高校に上がる時の葛藤をこう振り返る。「友だちや環境などすべてが変わるなかで、どうやって自分の場所を見つけていくのかがすごく重要で、いろんな勇気もいるし、努力も必要となる。本作では若さゆえの戦いみたいなものが切り取られていると思います」。
『ディストラクション・ベイビーズ』(16)でも小松と共演した菅田は、小松が現場で最初からいきなりトップギアに入れる姿勢を見て驚いたそうだ。「演技はドライ(リハーサル)、テスト、本番と3工程くらいやるんですが、ドライの段階からあんなに泣いている人を僕は初めて見ました。狙いなのか、それとも自分でも抑えられない何かがあるのか。どっちにしても面白いし、タフだなと思いました」。
小松は「狙いじゃないです」と首を横に降る。「どうしていいのか自分でもわからなくて。不器用なんです。急に本番で涙を流せと言われても無理で、最初から感情を作り、貯めていかないとできないタイプなので。むしろだんだん吸収していくタイプで、本番で出なくなっちゃうこともあります。『本番でできないのなら意味がない』と言われる時もありますし。でも、自分では止められないし、それを上手くできるような人になりたいです」。
菅田は「集中力がすごいです。どんなに現場が大変でも、そうやって先陣を切って滝に打たれようとするから、みんなもついていこうと思うんですよ」と感心する。
小松にも菅田と共演した感想を聞いてみた。「最初のイメージはクールボーイであまりしゃべらずに黙々とやるタイプだと思っていました。『ディストラクション・ベイビーズ』で暴行シーンがあった時、本当に殴ってもらわないと感情的にわからないから当ててほしいと思ったんです。でもそういう場合、相手が女優だとなかなかやってもらえなくて。私が菅田さんに『ちゃんと当ててほしい』と言った時、菅田さんとは初共演でしたが『もちろんその気でいたよ』と言ってくれて。ああ、この人はすごいと思ったんです。もちろん本番もちゃんと当ててくれて、お互い遠慮せずに全力が出せました」。
菅田も「あの一瞬でわかったよね。その時、本作をやることも知っていたんですが」とうなずく。小松は「この人だったら大丈夫だと思いました。『ディストラクション・ベイビーズ』で信頼関係ができて、そこからの『溺れるナイフ』でした。また、菅田さんは現場にいてもいい意味ですごく普通で、休憩中にギターを弾いたりして自分の時間を大事にしているし、自分のリラックス方法を知っているんです。私は現場にいるのが精一杯で、すごくテンパってしまう。菅田さんはそういうところを一切見せないし、監督から無理難題を言われてもすんなりやれるような柔軟性のある役者さんなので、すごく尊敬できます」。
菅田は「いや、そこは自己満足なんです」と言い恐縮する。「いかに気持ち良く楽しくカメラの前に立てるかということが大事で。役作りで痩せたり何かをしたりしても、現場で安心できないと意味がないし。自分が不安だからそうやって過ごすだけです。そういうふうにできるようになったのは『共喰い』(13)以降ですね」。
2人が研ぎ澄まされた演技を魅せる本作。小松は本作が普通の恋愛映画とは違うと言う。「お互いを高め、傷つけ合って成長していく。私的には“胸キュン”ではなかったです。実際、あの撮影期間は私にとっては特別な17日間でした。あんなに燃え尽き合って、しびれるような現場はいままでなかったので。自分も19歳だったし、このタイミングで撮れて良かった。今後も『溺れるナイフ』のことは忘れられないというか、頭に焼き付いている感じがします」。【取材・文/山崎伸子】