東京国際映画祭グランプリは、ホロコーストをユーモア交えて描く『ブルーム・オヴ・イエスタデイ』

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東京国際映画祭グランプリは、ホロコーストをユーモア交えて描く『ブルーム・オヴ・イエスタデイ』

第29回東京国際映画祭が11月3日に閉幕し、コンペティション最高賞にあたる東京グランプリには、ドイツ=オーストリア映画『ブルーム・オヴ・イエスタデイ』が輝いた。クロージングセレモニー後には、EXシアター六本木で受賞者会見と審査委員による総評が行われ、メガホンをとったクリス・クラウス監督が本作に込めた思いを語った。

『ブルーム・オヴ・イエスタデイ』は、ホロコーストのイベントを企画する頑固な男が、フランス人アシスタント女性と調査を続けるなかで辿る顛末を描く物語。ホロコーストというヘビーな題材を、ユーモアや恋愛を交えて鮮やかに映し出した。会見には審査委員を務めたジャン=ジャック・ベネックス、メイベル・チャン、ヴァレリオ・マスタンドレア、ニコール・ロックリン、平山秀幸。各受賞者も出席した。

審査員のチャンは「ホロコーストの歴史を特例な視点で見ながら、被害者と加害者が人間のふれあいを深めていくというメッセージが込められていた」と評価。「それは、人間にとって“許す”ということがどれだけ大事なのか。そこから憎しみが消えていくことが可能なのかというスペシャルなメッセージ」と投げかけるメッセージ性を称えた。

クラウス監督は、「難しいテーマだった」と述懐。「ワルシャワやベルリンなど記録文書が保管されている様々な場所に行った」そうだが、その時に気づいたのが、「加害者や被害者の孫の世代の方たちが、楽しそうに一緒に過ごしていること」だったと言う。「ユダヤ人の孫世代の方が、自分たちの辛い過去のことを冗談を交えて話している。それを見て、このテーマについて軽さを持って扱った方がいいのではないかと思った」と、本作の成り立ちについて解説していた。

また、クラウス監督は審査員長のベネックスの大ファンだそうで、「彼の映画も、ラブストーリーと痛みが混ざり合っている」と自身の作品との共通点を語り、「僕のヒーロー。同じ舞台に立てたのは夢のよう」と感激の面持ちを見せていた。

日本から出品された『アズミ・ハルコは行方不明』と『雪女』の2作品は、惜しくも受賞を逃した。ベネックスは「とても対照的な2作品だった」とコメント。「ひとつはとても伝統的なストーリー。もうひとつはクレイジーでワイルドで、ストーリーをひっくり返したような映画。とても対照的な視点を見せてくれた」と感想を述べていた。【取材・文/成田おり枝】

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