板尾創路、行定勲監督のロマンポルノで濡れ場の難しさを実感
「ロマンポルノ・リブートプロジェクト」と聞いて、胸がざわざわした映画ファンは少なくないだろう。かつての「日活ロマンポルノ」といえば、単なる成人映画レーベルというだけではなく、日本映画の黄金期における若き才能を拾い上げる表現の場でもあった。そんな「日活ロマンポルノ」の復活第1弾が、『ピンクとグレー』(16)の行定勲監督による『ジムノペディに乱れる』(11月26日公開)だ。主演の板尾創路に「濃密だった」という撮影現場についてインタビューを敢行した。
『ジムノペディに乱れる』は、作家性の強い映画監督の古谷(板尾創路)が仕事を失い、鬱屈した思いを抱えながら女たちと交わっていく様子が、エリック・サティのジムノペディにのせて描かれていく。板尾はオファーが入った時点で出演を快諾した。「行定さんが監督でロマンポルノというだけでうれしくなって、脚本も読まずに出演を決めました」。
新ロマンポルノのマニフェストは、日活ロマンポルノの特質を引き継ぎ、総尺80分前後、10分に1回の濡れ場、製作費は全作一律、撮影期間は1週間の完全オリジナル作品だ。「体力的にはめちゃくちゃしんどかったです。ほぼ全シーンに出ているからそんなに考えている時間もなかったし、一息つく暇もなく勢いで1週間を走り抜けた感じです。でも、心身疲れている感じがキャラクター的にはちょうど良かったんじゃないかと」。
古谷と関係を持つ教え子・結花役を演じたのは、BOMI名義でミュージシャンとして活動し、本作が本格的な映画デビュー作となった芦名すみれだ。現場での芦名はかなりアグレッシブだったそうだ。
「彼女はヒロイン的な位置づけでしたからかなり気負っていました。きっと自分なりにキャラクターを考えて来ていたんだと思いますが、少しやりすぎ感がありまして。本人はやる気満々で来るので、僕も監督もそんな彼女を抑えるのが大変なくらいでした」。
板尾は情熱の赴くままに体当たりで来る芦名から、ただならぬ覚悟を読み取った。「僕たち男とは違い、若い女優さんは自分の体をさらすということで、強い決意をもって臨んだと思います。やはり反対されたとか、旦那さんに言ってないとか、お母さんにだけ言ったとか、そういう話を聞きました。母親はわりとOKらしいんですが、父親はダメだそうで。気持ちはわかりますけどね」。
板尾自身も娘をもつ父親である。「僕だって我が娘にそう言われたら『ダメだ』と言うに決まっているじゃないですか。でも、彼女たちは振り切って来ているわけです。ご主人に言ってない場合、一体どのタイミングで言うのかなと。芦名さんからは女の力強さみたいなものがビンビンに伝わってきました。だからこっちも適当な気持ちで臨むわけにはいかなかったです」。
古谷監督作の主演女優・安里役を演じた岡村いずみはnon-noの専属モデルを経た新進女優で、今回濡れ場に初挑戦した。「彼女はいちばん楽しんでやっていたかなと。やっぱりお芝居が好きなんでしょうね。映画に出られることが幸せだと感じているような印象を受けました。力の入れ方がちょうど良くて、すごくやりやすかったです。お互いに初対面だと遠慮したり照れたりするんですが、そういう空気を全然感じさせない方でした」。
本作に出演してみて、改めて濡れ場を演じる難しさを実感したという板尾。「濡れ場の数が多いので、そこをどういうふうに表現していったらいいのかなと。ロマンポルノは初めてだったから芸がないというか、どれくらいカメラに対して自分を出していいものかと手探りでやっていきました。女の人をきれいに見せたいけど、そうするためにはどうしたらいいのかと真摯に考えましたね」。
最後に板尾は、ロマンポルノについてこうアピールする。「日活ロマンポルノという枠があったからこそ、いまの日本映画があると言っても過言ではないです。映画好きな人は是非観に来てほしいし、やっぱりスクリーンで観ないと意味がないので、これこそ映画館で観ていただきたいです」。【取材・文/山崎伸子】