メリル・ストリープ、生涯現役宣言!驚きの仕事選び術を明かす

インタビュー

メリル・ストリープ、生涯現役宣言!驚きの仕事選び術を明かす

アカデミー賞に19度ノミネート、そのうち3度の受賞を果たすなど、ハリウッドの“生けるレジェンド”である女優メリル・ストリープ。およそ40年にわたって厳しい世界で第一線を走り続ける彼女だが、女優業について「実はそんなに深い思い入れもなくて、始めてしまったこと。私自身は、すごくゆっくり進化してきたのよ」と意外な言葉を口にする。『マダム・フローレンス! 夢見るふたり』(12月1日公開)を引っさげて来日したメリルにインタビューし、“人との出会い”が繋いでくれた女優という道。仕事選びの秘訣までを聞いた。

本作は、類稀なるオンチにも関わらず、カーネギーホールを満員にした伝説の歌姫マダム・フローレンスの実話をもとに描く人間ドラマ。持病を抱えながらも、音楽への愛を持ち続けたマダム・フローレンスの生き様が、笑いと涙と共に綴られる。

メリルのもとには数多くのオファーが舞い込むが、本作に惹かれた理由を「30年間ずっと、スティーヴン・フリアーズ監督と仕事がしたかったの。会ったことがなかったけれど、彼の作品は見ていたから」と『クィーン』や『あなたを抱きしめる日まで』を手がけてきたスティーヴン監督の存在だと明かす。

「彼から、『君にいい映画があるんだ』と電話がかかってきたのよ。それでもう『イエス』と答えたわ。彼も『ええ!?何も聞かないのかい?』と驚いていたけれど、私は『何でもいいわ』と言ったの(笑)」となんと脚本も読まずに即決したとか。メリルにとって仕事選びで大事なのは、ストーリーやキャラクター以上に、一緒に取り組む“人”が信頼できるかどうかが重要なようだ。

歌唱力の高さにも定評のあるメリルが、絶世のオンチ役に扮しているのも新鮮だ。「2か月間、オペラのコーチをつけてきっちり歌えるようにして。そこから音程を崩す特訓をしたのよ」と特別な練習が必要になったと言うが、さらにメリルは、彼女の歌声の本質を「歌が好きで好きで仕方ないという喜び。夢は叶えられるという想像力」と捉えたそう。マダム・フローレンスの歌声に込められた“人生の豊かさ”というエッセンスまでを、見事に体現してみせた。

劇中では、マダム・フローレンスと夫シンクレア(ヒュー・グラント)との愛も感動的に描かれる。シンクレアとの出会いがあったからこそ、その支えを力に、マダム・フローレンスは夢を叶えるべく邁進できたのだ。メリルにとって女優道を突き進む上で、大事な出会いはあっただろうか?

「私自身は、すごくゆっくり進化してきたのよ。実はそんなに深い思い入れもなくて、始めてしまったこと。最初は見栄を張る世界にも見えたし、バカバカしいと思っている自分もいたわ。それでも演じることが大好きだった。この仕事に全力投球してもいいんだと思ったのは、他の共演者たちを見た時よ。そうすることで理解を深めて、この仕事は重要な、素晴らしい仕事なんだって発見することができたの」。

「第一線を走り続けてきた」と言うとたくましい女性を想像してしまうが、対面したメリルは、芯の強さを持ちつつも、周囲を包み込むような柔らかなオーラが実に魅力的だ。「テネシー・ウィリアムズの『欲望という名の電車』でブランチが言ったように、私はいつも他人の優しさに頼ってきたのよ」と微笑むように、人との出会いの大切さを熟知し、思いやりあふれる人柄がそのオーラの秘密であるように感じる。

女優力を育むためには「詩を読んだり、音楽を聴いたりして、感受性を豊かにすることが大事」と明かすメリル。「そして人と話すことね。映画はコラボレーションであり総合芸術だから、みんながいて初めてできるものなのよ。私一人ではどうしようもない。クリエイティブな仕事って終わりがないし、今はそれが楽しくて仕方がないの。もちろん、生涯現役でいたいわ」と、やはり人との関わり合いが最大の原動力となっているようだ。【取材・文/成田おり枝】

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