ロマンポルノから多くの才能が生まれる理由とは?塩田監督と間宮夕貴が魅力を熱弁
「10分に1回の濡れ場」が代名詞の日活ロマンポルノ。数多くの傑作や才能を世に送り出した伝説のレーベルを蘇らせた「ロマンポルノリブートプロジェクト」が始動。日本映画界の第一線を走る5人の映画監督がプロジェクトに参加しており、それぞれが個性を見事に発揮している。そこで『風に濡れた女』(12月17日公開)の塩田明彦監督と主演女優の間宮夕貴を直撃し、「ロマンポルノの魅力」について語り合ってもらった。
欲を捨てて山小屋で暮らす男・高介(永岡佑)と、欲に純粋な動物のような女性・汐里(間宮)の出会いを描く本作。本能むき出しでヒートアップする男と女のバトルを生き生きと活写する。野性味あふれる女性を体当たりで演じた間宮は、オーディションでヒロインの座を獲得。「塩田組のオーディションだということしか知らなくて、ロマンポルノだとも知らずにオーディションを受けさせていただいた」と驚きの告白をする。
塩田監督は「そう言われてみると、すごく腑に落ちることがあって」と口火を切り、「100人くらいのオーディションだったんですが、並みいる女性陣のなかで間宮さんは、一番気楽にやって来た。ふらっと来て、ラフに帰って行った感じなんですよ。『役を獲るぞ!』という構えがなくて、それがすごく良かった」と間宮の気楽さが功を奏した形となった様子。
汐里という女性に求めていたのは、ズバリ「野生」。塩田監督は「力を抜いて、相手役の俳優をおちょくったように帰って行った(笑)。歩き方や男性を見下ろす感じに匂い立つような野生があって、間宮さんが会場を出て行った後にはプロデューサーと思わず顔を見合わせましたね。思わず『いいね』とうなずき合いました。探せばいるもんだなぁと」と難役を任せられる女優の登場に顔をほころばせる。
「ロマンポルノだとは知らなかった」間宮は、合格の報に喜んだもののシナリオを読んでびっくり!「パッと開いたら、自転車で海に突っ込むシーンから始まるんです。そして『胸が露わになる』と書いてあって(笑)。『あれ、これヌードですか?』と聞いたら、ロマンポルノだということで!主演とも知らなかったので、驚くことばかり。事務所は伝えていたらしいのですが(笑)」と目を丸くしたが、塩田監督曰く「肝が座っている」彼女。監督の期待に応えて、野生そのものの汐里を迫力たっぷりに演じきった。
間宮自身にはプレッシャーがあったようだが、「だんだん緊張感が出て来て、やばい!と。でも監督が優しいので、うまく操っていただきました」と感謝しきり。演じきった今、「今まで私は根暗なイメージが強かったんですが、この作品でそれが全部吹き飛ばされた気がしています。こういう役をやっていいんだとも思えたし、自分の映画を観て初めて、『いい女だな』と思えた(笑)。もっと頑張ろうと思いました!」と新境地に清々しい笑顔を見せる。
アクションのような濡れ場も見応えたっぷり。「『今、ロマンポルノを作る意義』というものをあまり考えずに挑んだ」という塩田監督だが、「僕はもともとロマンポルノが大好きで。過去を意識しないと言いつつ、出だしの自転車で海に突っ込むシーンは、僕の大好きな神代辰巳監督の『恋人たちは濡れた』のラストシーンをひっくり返すように作っているんです。ロマンポルノの歴史に連なる刻印を映画に残そうと思ってやりましたが、それ以外は新しいものとして作りました。自分なりに偉大な歴史に1ページを加えることができた満足感があります」と充実の思いを話す。
さらに「ロマンポルノはホラーっぽいものもできるし、コメディっぽいものや切ないメロドラマっぽいものもできる。何でもできるすごく大きな器なんです。そのなかでリミッターをいかに外して人間を描けるかというところが、ロマンポルノの素晴らしさ。映画監督としては自分の作家性みたいなものを思い切り立ち上げることができるし、役者もリミッターを外した演技をできる場所。それで良い役者がたくさん育ってきたんだと思います」としみじみ。
間宮も「とてもリアルで、恋人同士の裏側まで見えるのがとても面白くて魅力的。先日、『さすらいの恋人 眩暈』と『悶絶!!どんでん返し』をひとりで映画館に観に行きました。女性もたくさんいましたが、チケット売り場でタイトルを言うのが恥ずかしそうでしたね(笑)」と大いにロマンポルノの世界を楽しんでいる様子だった。【取材・文/成田おり枝】