マルタ・エゲルト
Therese Krones
十九世紀後半ウィーンの名女優として謳われたテレーゼ・クローネスの出世話を映画化した軽い音楽映画で、「おもかげ」「未完成交響楽(1933)」のマルタ・エゲルトがこれに扮し、「偽国旗の下に」のヨハネス・マイヤーが監督したツィネ・アリアンツ映画。脚色はハンス・H・フィッシャー及びヘルタ・フォン・ゲプハルトの両氏、「別れの曲」のエルンスト・マリシュカが台詞を執筆している。音楽は「君を夢みて」のフランツ・グローテ、撮影は「銀嶺に帰れ」「制服の処女(1931)」のライマール・クンツェ。助演者は「セロ弾く乙女」の名テナー、レオ・スレザーク、「春の調べ」のアリベルト・モーグ、「マヅルカ」のアルブレヒト・シェーンハルス、「陽気な王子様」のグスタフ・ヴァルダウ、「歌へ今宵を」のテオ・リンゲン及びヴィリー・シュア、「黒鯨亭」のマックス・ギュルストルフ、ゲニア・ニコライエヴァ等である。
テレーゼ・クローネスはウィーンの洗濯娘だった。彼女は洗濯などしているけれど、舞台に立ってウィーン第一の名女優と謳われようという望みを抱き一人になると鏡の前で力んで居たのだった。ところが不思議や彼女の夢想は実現した。お友達の音楽家フランツが不図彼女の歌を聞いて、詩人であり名優であるフェルヂナンド・ライムンドに紹介したのが幸運の始まりだった。フェルヂナンドはすっかりテレーゼが気に入って、彼女の叔母の反対を押し切って、彼女に舞台を踏ませたのである。しかも、初舞台から、当時人気のプリマドンナ、ジュリー・ワラを相手にまわした大役で、テレーゼは有頂天だった。無経験な娘っ子が、とたかをくくったワラの予想は外れ、初日の幕が開くと、テレーゼは忽ちウィーンの花形となってしまったのである。此の奇蹟的な成功に目をつけたのが、ワラのパトロンであるヤロフ伯爵、世馴れた彼にとって、いま自己の成功に酔っているテレーゼの心を掴むこと位は易々たることだった。忽ち彼はテレーゼの保護者となり、彼女が招かれる社交界の凡ゆる会合に出席し、今は廃坑となって無価値の鉱山の株券を人々に売り付けたりした。しかし彼の危ない世渡りは、花形の地位から落とされ、パトロンに捨てられたワラが、嫉妬の余り、ヤロフ伯爵の正体を警察に密告したので一頓挫を来した。その上にテレーゼも伯爵の同類と密告されたために、テレーゼは其の夜の舞台で、拍手と花束の代わりに激昴した群集の罵声と足踏みを浴びねばならなかった。そして彼女は舞台裏から僅かに身を以て逃れたのであった。槿花一朝の夢と化した今、彼女は永遠にウィーンの町と別れようと決心した。テレーゼは独り淋しく駅馬車に身を潜め、遠ざかり行く都の灯を眺めるのだった。しかし、此の時彼女を救ったのは、ヤロフ伯とのことで喧嘩別れをしたフランツと、彼女の紹介者フェルヂナンドだった。二人は激昴している群集に向かい、テレーゼこそヤロフの被害を受けた最も憐れむべき女性であると説き、人々の非難の叫びを忽ち同情の声に変えさせた。追手は向けられた。駅馬車は忽ち劇場へと戻された。群集の歓呼と拍手の嵐に迎えられてテレーゼは喜びに胸もさけよと歌った。同じ喜びに顔を輝かせるのは、オーケストラの指揮棒を振るフランツであった。
Therese Krones
Franz Burgsaller
Ferdinand Raimund
Graf Wladimir Jaroff
Alois Schmatzer
Josefa his wife
Marinelli
Augustin Schopser
Julie Walla
Kolja
Leopoldine Schaffer
監督
製作
撮影
音楽
美術
美術
編集
作詞、台詞
脚色
脚色
[c]キネマ旬報社