中川梨絵
桐野しのぶ
年頃の娘の不可思議で複雑な心理と行動に振り廻される男たちを描く。脚本・監督は「艶説 お富与三郎」の加藤彰、撮影は「一条さゆり 濡れた欲情」の姫田真佐久がそれぞれ担当。
丸菱商事営業部のO・L桐野しのぶは、ある日上役の織部の紹介で見合いをさせられた。相手の青年は織部の知人、楠見である。楠見はしのぶとレストランで食事をした後、彼女をマンションまで送って行く。その時マンションの屋上から投身自殺者があったが、しのぶは驚いた様子もなく、何もなかったように部屋へ入って行った。しのぶと別れた楠見は、情婦英子のアパートへ。それから数日後、しのぶからの意思表示もなく欠勤がつづいた。織部はしのぶのマンションを訪れた。しのぶは心よく織部を部屋に入れたが、意外なことを告白した。小さい頃、心臓を患っていて二十歳までもつまい、と言われた体なのである。そして、毒入り紅茶で織部と無理心中しようとするが失敗。さらに、内側から錠をかけ、その鍵を窓の外へ捨ててしまった。ようやくしのぶの異状さに気が付いた織部だったが、彼女の魅力と挑発に負け荒々しく抱きしめるのだった。電話もなく、外に連絡のつけれないうちに三日がたってしまった。そして、やっと新聞の受箱の中に合鍵を見つけた織部は、急ぎ出勤した。そこで彼は部下の石黒から意外なことを耳にする。「次長、聞きましたよ。実は僕もやられたんです、彼女に。一種の色情狂ですな」織部は呆然として、言葉を返せなかった。
[c]キネマ旬報社