監督、脚本
祖国を亡命した元シリア兵のジアード・クルスーム監督が、喪失と悲しみの記憶を詩的情緒豊かに紡ぎ出す革新的ドキュメンタリー。超高層ビルの乱開発が進むベイルート。そこでは、内戦で家を奪われた多くのシリア人移民が、劣悪な環境で労働を強いられていた。撮影監督は、本作でボストン国際映画祭最優秀撮影賞を受賞したレバノン出身のタラール・クーリ。
ストーリー
1975年~90年、15年続いた内戦で廃墟と化したレバノンの首都ベイルートは、現在、超高層ビルの建設ラッシュ。その建設現場では、シリア人の移民・難民労働者たちが、基本的人権すら保障されない労働環境で働いている。建設現場と労働者たちが住む地下は一つの穴で繋がっていて、労働者は毎日蟻のようにその穴を出入りする。剥き出しのエレベーターに乗り込み、労働者たちは地上高く登る。ベイルートの美しい町並みと、真っ青な地中海を眺望する現場で労働者たちはセメントを運び、カッターでブロックを切り、ドリルで壁を砕く。そんな彼らの目線の先を巨大なクレーンが轟音を立てながら横切る。夕方。燃え盛る夕日がベイルートの海に沈んでゆく。夜の街を光が灯す。ベイルートの美しい夜景は労働者たちに一日の終わりを告げる。彼らはいつもの穴を通り、まるで巣のような地下へと帰る。街には「午後7時以降、シリア人労働者は外出禁止」と書かれた大きな横断幕が張られている。夜。地下は雨漏りで水浸しになっている。電球の明かりがその水に反射するなか、労働者たちが食事を囲みテレビをつける。レバノン国境で追い返されるシリア人の映像が映し出される。スマートフォンには空爆で破壊されたアレッポ市街の画像が飛び込んでくる。テレビのニュースは拡散するシリア人難民への差別問題や、ダマスカスで政府軍によって使用されたとする毒ガス兵器で苦しむ少女について報じている。一人の労働者が電球を回し、灯りを消して労働者たちは床に就く。ある男が、出稼ぎ労働者だった父がベイルートから持ち帰り、キッチンに貼った一枚の絵の記憶を回想する。その絵には白い砂浜、青い空、そして2本のヤシの木が描かれていた。男が少年の頃に初めて見た海の記憶。待ち焦がれていた父の帰還に少年は、はしゃぐ。顔を撫でてくれた父の手はセメントの味がした。父は少年に「労働者は戦争が国を破壊し尽くすのを待っているんだ」と語る。男は異国の地で父への想いを巡らせる……。
スタッフ
脚本、プロデューサー
アンツガー・フレーリッヒ
脚本、撮影監督
タラール・クーリ
編集
アレックス・バクリ
編集
フランク・ブラウムンド
音響効果
セバスチャン・テッチ
プロデューサー
エヴァ・ケンメ
プロデューサー
トビアス・N・ジーベルト
色調補正