三山凌輝が語る『誰よりもつよく抱きしめて』が示す“愛の形”。「すべてを受け入れることが、愛するということ」

インタビュー

三山凌輝が語る『誰よりもつよく抱きしめて』が示す“愛の形”。「すべてを受け入れることが、愛するということ」

新堂冬樹の同名恋愛小説を映画化し、内田英治監督がメガホンをとった『誰よりもつよく抱きしめて』が公開中だ。主人公は、鎌倉の海沿いの街で共に暮らす絵本作家の水島良城(三山凌輝)と、書店員の桐本月菜(久保史緒里)。2人は学生時代からの恋人で、お互いを大切に想い合っているが、強迫性障害による潔癖症を持つ良城は、月菜に触れることができずにいた。あることをきっかけに治療に向き合うことを決意した良城は、同じ症状を抱える女性、村山千春(穂志もえか)と出会う。悩みを共有できる相手に出会えたことで、距離を縮めていく良城と千春。そんな2人を目の当たりにし、思い悩む月菜の前に、恋人と触れあっても心が動かないという青年イ・ジェホン(ファン・チャンソン)が現れる。

MOVIE WALKER PRESSでは、俳優として活躍の場を広げ続ける三山への単独インタビューを実施。複雑なキャラクターを繊細に演じきった三山に“良城として生きる”ために行った役づくり、主題歌の歌詞に込めた想いまで語ってもらった。

「見る人によって思い入れが偏る感覚があって、内田監督らしい作品」

内田英治監督作『誰よりもつよく抱きしめて』は公開中
内田英治監督作『誰よりもつよく抱きしめて』は公開中[c]2025「誰よりもつよく抱きしめて」HIAN /アークエンタテインメント

脚本を読んで最初に感じたことについて、「決定づける展開がないことがおもしろいなと思った」と三山。「どちらかの心だけを映すのではなく、見る人によって思い入れが偏る感覚があって、内田監督らしい作品だなと思いました」と、その魅力を話す。三山が監督から求められたのは、「その場で生きること」。「『(役を)作らないでほしい』ということは何度も言われましたし、僕も、それがお芝居のあるべき姿だと思います。その場にいることの大切さと、そのシーンで生みださなきゃいけない本質こそが大事だと思っていました」と、演じるうえで大切にしたことを明かす。

そうして、インタビューの場で自らの意思を迷いなく言葉にする三山と、彼が本作で演じた良城とでは、声のトーンや話し方、佇まいまで、すべてが異なるように感じる。「その場で生きる」ためにも、良城という人物について、丹念に掘り下げ、解釈を深めたのではないだろうか。聞くと、最初の本読みの時点で、三山と監督の思う“良城像”はマッチしていた部分が多かったそうだ。そのことについて三山は、「自分の試行錯誤の方向性が合っていると思えた」と、独特の表現で振り返った。

「芝居でのわかりやすさで言うと、喋り方は工夫しました。良城は、あまり自信がなさそうな感じ。ハキハキせず、ゆっくりめで、ちょっとしどろもどろになる」と、良城の特徴を話す三山だが、それらは「直観的に出ている部分もあると思う」と分析する。「演技として考えて振舞っている部分もあると思うけど、『良城に寄り添うことによって、自然とそういうふうになっていった』というのが近いかなと思います」。

役を作るのではなく、“良城として生きる”ことを心掛けたという三山
役を作るのではなく、“良城として生きる”ことを心掛けたという三山撮影/友野雄

良城として生きるにあたって、特に探った表現を問うと、間髪入れずに「怒り」という答えが返ってきた。「すごく怒りをぶつけちゃうと、それは良城の怒り方ではなくなっちゃう。怒って、気持ちよくすっきりしちゃダメなんです。『怒っているけど、なんかはっきりしないな、こいつ』って、見ている人もイラっとするくらいが良城っぽいと思いました。本当は、『(声を張って)俺だってさ!』くらい叫びたいけれど、それができない不器用さがある。そういう怒りのバランスは、良城のポイントとして考えました」。

「すべてを受け入れることが、愛するということだと僕は思います」

終盤には、本作で最も心打たれる雨のシーンがある。ある良城の行動が、月菜への愛を表現していた。それはもちろん、触れることでも抱きしめることでもなく、「愛している」と言葉にすることでもない。しかし、たしかにそこには、月菜への愛があった。果たしてこの作品における「愛」とは、相手になにをしてあげられることなのだろう。三山はきっぱりと「すべてを受け入れること」だと答えた。


月菜に対したしかな愛を示す良城の行動に、胸を打たれる雨のシーン
月菜に対したしかな愛を示す良城の行動に、胸を打たれる雨のシーン[c]2025「誰よりもつよく抱きしめて」HIAN /アークエンタテインメント

「その人のすべてを受け入れる覚悟があるかどうかが、その人の人生を背負えるか、その人を幸せにできるかに繋がってくると思う。人間って、どれだけ相性が合ったとしても、一緒にいることによってずれを感じる部分もあれば、『あれ?なんか違うな』と思う部分もあると思うんです。でも、そう思いながらも『この人のことが好きだな、この人のことを守りたいな』と、“それすらも愛すること”、すべてを受け入れることが、愛するということだと僕は思います」。

その想いは、作中での良城と月菜の姿に重なり、さらに言えば、月菜が良城に抱いている想いにも近いように思う。「(月菜は良城を)受け入れようとすごく頑張っていると思います。だけど、そううまくはいかなくて、ずれが生まれていく。そのもどかしさが作品のテーマであり、人間同士の切ない部分として現れていると思います」。

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