37年の時を超えて日本に上陸…鑑賞注意の超問題作『アングスト/不安』とは?

コラム

37年の時を超えて日本に上陸…鑑賞注意の超問題作『アングスト/不安』とは?

1983年にオーストリアで公開されるもわずか1週間で打ち切りとなり、その後世界各国で上映禁止やビデオ発売禁止になるなど、あまりのショッキングさに半ば”封印”にも近い状態となっていた『アングスト/不安』。37年の時を経た今年「作品に時代が追いついた」として7月3日より公開中だ。

狂気に満ちた顔でK.が繰り広げる蛮行とは…
狂気に満ちた顔でK.が繰り広げる蛮行とは…[c]1983 Gerald Kargl Ges.m.b.H. Filmproduktion

物語は、1980年にオーストリアで実際に起きた殺人鬼ヴェルナー・クニーセクによる一家惨殺事件を映画化した実録スリラー映画。刑務所を出所した殺人鬼=狂人が感じる不安や、プレッシャーによる異様な行動と心理状態が、凶暴かつ冷酷非情なタッチと斬新なカメラワークを用いて表現されている。

そんな凄まじい物語の一部を先んじて観ることができる予告映像は、イタリアの詩人ダンテによる長編叙事詩「神曲 地獄篇」より、「この門をくぐる者は一切の希望を捨てよ」という一節が冒頭に映し出される場面から始まる。この言葉は、ジェラルド・カーグル監督の要望により、今回日本版の予告のみに入れられたもの。この門をくぐる者=この映画を観る者への警告と取れるメッセージだ。

そして、次に映しだされるのは『U・ボート』(81)、『アンダーワールド』(03)の俳優アーウィン・レダー扮する主人公 K.。シャツにジャケットを合わせた一見普通の青年だが、瞬きひとつせずそわそわした様子でとある屋敷を訪ね、出てきた老婆をなんの迷いもなく銃殺。刑務所へ収容されるが、その後出所した彼は妖しい幻想を抱き、再び”異常”な行動を繰り返していく。終始陰鬱な映像や音楽は、観る者の恐怖をさらにかき立てるだろう。

車椅子の女性に暴行を加えるK.
車椅子の女性に暴行を加えるK.[c]1983 Gerald Kargl Ges.m.b.H. Filmproduktion

同時に公開された場面写真でも、K.が車椅子の女性を激しく暴行する様子や、得体の知れないものを口に含む姿など、スクリーン内で起こる狂気が生々しく映しだされている。ポスターには、「本物の《異常》がいま、放たれる。後悔してももう遅い。」のコピーとともに、K.が叫ぶような姿が大きく描かれている。

さらに今回、「生涯最高の映画のひとつ」と言うほど本作の大ファンだと公言している映画監督のギャスパー・ノエから、異例の日本限定メッセージ動画が到着した。世界でも上映された例は少なく、VHSもほとんど出回っていないなか、「60回は観た」という大ファンっぷりを見せるノエ。彼が語る作品の魅力とこれから鑑賞する日本人に向けたメッセージは必見だ。

K.が口に含んでいるものはなに…?
K.が口に含んでいるものはなに…?[c]1983 Gerald Kargl Ges.m.b.H. Filmproduktion

芸術性の高い作品だが、K.の蛮行に日本の映倫審査員からは「R15+だが精神的に滅入る内容」とのコメントも。レアな今回の日本上映で映画史に残る唯一無二の傑作である本作を鑑賞する覚悟を持てるか、予告編をじっくり観て判断してほしい。

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