ダルデンヌ兄弟が『その手に触れるまで』で問いかける社会のひずみ…「狂信化した人を救うことはとても難しい」
「狂信化したとしても、もとの子どもに戻る可能性がある」(ジャン=ピエール・ダルデンヌ)
――少年を主人公にした理由を教えてください。
ジャン=ピエール・ダルデンヌ(以下ジャン=ピエール)「若者が過激なテロに加わる作品はこれまでにもたくさんあったと思います。しかし、私たちが描きたかったのは、狂信化した人は、どうすればそこから脱することができるのか、でした。少年を選んだ理由は二つあります。一つは成長途中なので、様々なことに影響され、誘惑を受けやすいからです。もう一つは、狂信化したとしても、もとの子どもに戻ることができる、その可能性があると思ったからです」
――アメッド役のイディル・ベン・アディはどのような経緯でキャスティングしましたか?
ジャン=ピエール「100人ぐらいの少年と顔を合わせましたが、特によかったのがイディルです。彼には生まれ持った才能も感じましたが、なによりその顔には人生の厳しさが刻まれた跡がなく、身体的にも多くの部分が子どものままでした。彼の歩き方、走り方を見ていただければわかると思うのですが、不器用で自分の体を使いこなせていない印象を受けます。とはいえ、作品が彼の肩にかかっていると言っても過言ではなく、私たちもスタッフも多少の不安はありました。しかし、リハーサルで演技するイディルを見て、任せて大丈夫だと確信しました」
「どんな宗教でも新たな変化を起こすのは女性です」(リュック・ダルデンヌ)
――アメッドの周囲には、母親や教師、彼に好意を寄せる少女など、様々な女性がいます。彼女たちにはどのような役割があったのでしょうか?
リュック「アメッドが信じる教義では、彼の母親はそぐわない服装をし、飲酒が禁止にもかかわらずワインも飲みます。イネス先生は、(イスラム教の聖典)コーランを歌で覚える授業を行うなど、背教者です。そして、更生プログラムでアメッドはある農場を訪れ、そこの娘であるルイーズに出会い、キスをしてしまいます。彼にとってそれらは、信仰に背く行為で、彼女たちをそのままにすれば、天国へ行くことができないのです。一方で、どんな宗教でも、新たな変化を起こすのは女性です。アメッドが彼女たちとかかわることで、心に揺らぎが生じていくのです」