ダルデンヌ兄弟が『その手に触れるまで』で問いかける社会のひずみ…「狂信化した人を救うことはとても難しい」
「目の前に死が近づいたことで、初めて過ちに気づいた」(ジャン=ピエール・ダルデンヌ)
――誰もがアメッドに対し、親身なって接しているのが印象的でした。それだけに、彼が頑なに心を閉ざす姿は胸が苦しかったです。
ジャン=ピエール「それが狂信化というものなのです。外の世界の言葉がまったく耳に入らなくなくなり、信条が同じ人は仲間と考えますが、それ以外を敵とし、排除しようとします。そして、その行為が宗教にとってよいことだと思い込んでいるのです。だからこそ、狂信化した人を救うことはとても難しいのです」
――過激な思想を変えることは不可能なのでしょうか?
ジャン=ピエール「少し前にフランスのジャーナリストから聞いた興味深い話があります。フランス出身のある元テロリストがイラクの刑務所に投獄されたのですが、彼は母国で裁判を受けさせてほしい、それが民主主義だとうたったそうです。しかし、彼はシリアで大勢の人を殺している。彼の言葉には矛盾があります。目の前に死が近づいたことで、初めて過ちに気づいたのかもしれません。なかなか、共感できることではありませんが…」
「人々の健康が公的な財産であると考えていただきたい」(リュック・ダルデンヌ)
――新型コロナウイルス感染の影響もあり、世界中が先の見えない状況に直面しています。私たちの社会はどうあるべきだと思いますか?
リュック「いまの社会を見ていると、人々の健康や文化、教育までもが後回しにされており、経済や市場を重視してきた政府の責任は重いと考えます。アメリカではバラク・オバマが大統領の時代に、人々を平等にする社会保障のシステムを構築しましたが、ドナルド・トランプによってそれらは破壊されてしまいました…。現在、新型コロナウイルスによる死者も大勢出ています。世界の政治家や指導者たちには、人々の健康が公的な財産であると考えていただきたいです」
取材・文/平尾嘉浩(トライワークス)
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