予測のつかないアメリカの劇場再開…大型作品はストリーミングサービスの残留装置に?
ディズニープラスで『ハミルトン』が配信中だ。「ハミルトン」は2015年にオフ・ブロードウェイで始まりブロードウェイに進出し大ヒットを記録したミュージカルで、アメリカ合衆国建国の父の1人であるアレキサンダー・ハミルトンを題材にしている。『モアナと伝説の海』(16)の音楽や『メリー・ポピンズ・リターンズ』(18)のジャック役を演じたリン=マニュエル・ミランダが脚本、作詞、作曲、出演し、トニー賞でミュージカル作品賞、ミュージカル脚本賞、オリジナル楽曲賞など13部門を受賞している。2016年に行われた舞台をそのまま収録した映画版2021年10月15日に公開予定だったが、2020年のコロナ禍による映画業界の大混乱を受け、急遽ディズニープラスで世界配信されることが発表された。
3月から続いている映画館の閉鎖に伴い、映画公開カレンダーは調整が困難になっている。アメリカの大手スタジオは年間事業計画を立て、テントポール(屋台骨)と呼ばれる大型作品を年間の書き入れ時(5月末から9月第1週のレイバーデイまでの夏休み映画、11月第3週木曜日の感謝祭から年末までのホリデー映画など)に配置する。
映画というギャンブル要素の高い商売ながら、ある程度の収益予想をつけるためだ。興行側も、テントポール作品の公開日が決まらないと、それ以外の小さめの作品やインディペンデント系配給会社の作品の公開日を決めることができない。そのため、大型作品は数年間分の公開日が決まっている。
今年の夏休み映画で言うと『TENET テネット』(ワーナー・ブラザース/9月18日日本公開)や『ムーラン』(ディズニー/9月4日日本公開)、『ワンダーウーマン1984』(ワーナー・ブラザース/10月9日日本公開)、『クワイエット・プレイス PARTII』(パラマウント/近日公開)、『キングスマン:ファースト・エージェント』(ディズニー、20世紀フォックス映画/9月25日日本公開)などがある。どの作品もいまだに公開日が不安定で、数年前から2020年7月17日公開が決定していた『TENET テネット』は、すでに2度公開日を変更している。
テントポール作品は収益も大きいが、その分マーケティング経費や宣伝費などの出費も多い。公開日がままならないと宣伝を始めるタイミングも難しく、スケジュールを決めることができない。そのため、3月以降VOD(ビデオ・オン・デマンド)形式やストリーミングサービスで劇場公開作品をホーム・エンターテインメントに移行する動きが加速している。
5月に公開予定だった『SpongeBob: Sponge on the Run』は一旦8月公開に延期されたものの、最終的に2021年にパラマウントの親会社のCBSのストリーミングサービスで公開されることになった。日本でも『泣きたい私は猫をかぶる』が6月劇場公開予定からNetflixによる世界配信に変更になったのも記憶に新しい。『ハミルトン』もその1本で、劇場公開予定から大幅に前倒しでDisney+にて配信されることになった。