『熱帯魚』『ラブ ゴーゴー』…台湾ニューシネマの“異端児”チェン・ユーシュンの魅力を再確認
1980~90年代にかけ台湾の若手映画監督を中心に展開された“台湾ニューシネマ”。エドワード・ヤン(楊徳昌)、ホウ・シャオシェン(侯孝賢)やツァイ・ミンリャン(蔡明亮)らに続いて、彼らとは一線を画す異端児として出現したのがチェン・ユーシュン(陳玉勲)だ。現在、ザ・シネマメンバーズではユーシュンの初期作『熱帯魚』(95)と『ラブ ゴーゴー』(97)を配信中。この2本を中心に、ユーシュンが異端と言われる所以を振り返ってみたい。
ミンリャンの「快楽車行」にスクリプターとして参加するなどテレビドラマで活躍していたユーシュンは、そのかたわらで脚本を執筆し、1995年に『熱帯魚』で長編映画デビューを果たす。当時、台湾で流行していた誘拐事件をモチーフにした本作は商業的にも成功したほか、スイスのロカルノ国際映画祭にて青豹賞を受賞するなど高い評価も獲得した。
受験戦争になじめない夢見がちな台北のボンクラ少年と、そんな彼をなりゆきで誘拐してしまう超田舎に暮らす一家。誘拐報道がヒートアップするなかで少年は連れ去られた漁村で白昼夢のような不思議な時間を過ごし、謎めいた少女と遭遇する。シリアスな事件を題材にしながらもユニークな登場人物やコメディタッチな演出が話題となった。台湾ニューシネマ特有の難解さ、複雑さを軽く吹き飛ばしながらも、学歴社会や格差社会の問題を映しだし、若い世代からの多くの共感を獲得した。
センセーショナルなデビューを飾ったユーシュンが2作目として発表したのが『ラブ ゴーゴー』。冴えないケーキ職人のアラサー男子や食欲旺盛なおデブちゃん、ケーキ職人の初恋相手、内気な痴漢撃退グッズのセールスマンなど、どこにでもいそうでありながら一風変わった若者たちが紡ぐ恋の物語。台北に住む若者たちのせつなくも滑稽な恋模様を、苦さも交えながら、カラフルかつポップに描いた作品で、観ているうちに登場人物たちをやさしい気持ちで見守りたくなってしまう。
『ラブ ゴーゴー』のあとユーシュンはしばらく長編映画から離れ、CMや短編映画の世界に身を置いていた。しかし、台湾でメガヒットとなった『祝宴!シェフ』(13)で長編映画の監督に返り咲き、2017年にはプチョン国際ファンタスティック映画祭で最優秀アジア映画賞にも輝いた『健忘村』も発表している。これらの作品にも引き継がれた、ユーシュン流のユーモアセンスは一度観たら忘れられないだろう。
文/トライワークス
<台湾青春映画特集~ヤング・ソウル・レベルズを探して~:チェン・ユーシュン>
https://members.thecinema.jp/
ラインナップ全2作品(順次配信中)
『熱帯魚』(95)
『ラブ ゴーゴー』(97)