『ソワレ』外山文治監督が豊原功補&小泉今日子と共に志向した“ATGの攻めの姿勢”
翔太役のキャスティング、村上虹郎の登用は最初から決めていたが、タカラ役はオーディションで。芋生悠は100人以上のエントリーの中から選ばれた。
「虹郎くんは改めて言うまでもなく、魅力的なパフォーマー、表現者として圧倒的に優れています。しかも今回、先頭に立ってこの座組みを引っ張ってくれました。芋生さんは近年、インディペンデント映画を支えてきた方ですが、どこか影のある空気感に惹かれますね。喩えると山口百恵さんみたいな。劇中、彼女は地べたを何度も這いつくばるんですよ。負のスパイラルから抜けだすために。人間の業(ごう)に塗れ、それを背負える、強靱な魂と肉体の持ち主です」
「豊原功補さん、小泉今日子さんと闘いながら脚本をつくっていった」
すでに話題となっているが、この映画は外山監督と俳優の豊原功補、小泉今日子らと立ち上げた映画製作会社「新世界合同会社」の旗揚げ作品。豊原と小泉は脚本を再三ブラッシュアップしていき、キャスティングにも関わった。
「豊原さんは舞台の演出家でもあって、その目線はとても高いところにあるんですね。で、小泉さんはこれまで相米慎二さんや黒沢清さんなど錚々たる監督と渡り合ってきた方。脚本に甘い箇所があると、すぐに見抜かれるんです。課題となったのはシーンの強度。ほとんど3人で闘いながらつくっていきました。嬉しかったのは“令話の時代”にあって、作家性を強く押し出していたかつての日本アート・シアター・ギルド(ATG)のような志向があったこと。自分でもATGテイストを少し感じながらやっていましたね。だからか、芋生さんの佇まいが『青春の殺人者』(76/監督:長谷川和彦)のヒロイン、原田美枝子さんを彷彿させたりするんです。ATGの攻めの姿勢は、今の日本映画が失ってしまったものですけど、『やりたいことを貫け!』と背中を押してくれたのは、間違いなくプロデューサーのお二人でしたね」
「『温かな、優しい涙を流しましょう』という映画では失礼にあたる」
タイトルの『ソワレ』とはフランス語で「陽が暮れた後の時間」「夜会」、または劇場用語で「夜公演」を意味する。外山監督はさらにそこに、暗闇の中でもがきながら“夜明けを待つ人々”のイメージを重ね、こちらの斜め上をいくラストを用意する。
「観てくださるお客様の人生だって重いものを抱えている。『温かな、優しい涙を流しましょう』という映画では失礼にあたるのではないかと。夜明けが訪れる瞬間って、暗闇の世界に微かな光が差し込んできて始まっていくじゃないですか。重要なのはこの“暗闇”をしっかりと凝視すること。そうでないと、夜明けの“希望”の光も映し出せないと僕は思うんです」
取材・文/轟夕起夫