【今週の☆☆☆】90年代が舞台の青春映画『mid 90s』、各国映画祭絶賛の『行き止まりの世界に生まれて』…週末観るならこの映画!
MOVIE WALKER PRESSスタッフが、週末に観てほしい映像作品3本を(独断と偏見で)ピックアップする連載企画。今回は、9月4日から今週末公開作品の中から3本をピックアップ。俳優ジョナ・ヒルが監督としての才能を開花させたデビュー作をはじめ、過酷な環境で育った若者たちの軌跡と、世界的なオペラ歌手の偉業と素顔を見つめる、2本のドキュメンタリーからなる、心揺さぶるラインナップ!
90年代に13歳だった少年の、大人への通過儀礼…『mid 90s ミッドナインティーズ』(9月4日公開)
『マネーボール』や『スーパーバッド 童貞ウォーズ』など、一度観たら忘れがたい個性の俳優、ジョナ・ヒルが映画監督デビュー。俳優としての魅力と同様に、さまざまな「味わい」を感じられる作品を撮り上げた。タイトルが示すように、1990年代が舞台。ロサンゼルスで母と兄と暮らす13歳のスティーヴィーが、スケボーをきっかけに年上少年たちのグループに加わり、大人への通過儀礼を経験する。ティーンムービーとして何度も語られてきたストーリーだが、90年代、LAでスケボーを滑っていたジョナ・ヒルは、実際に遊んでいたスケボーパークも撮影に使用。登場人物それぞれに自身を投影しているようで、スティーヴィーだけでなく、年上少年たちの深い悩みや、屈折感も浮き彫りにして、意外なシーンで感動がもたらされる。Tシャツやゲーム、音楽で、あざとくなく、さりげなく時代を再現。プロボーダーも参加したキャストたちの「滑り」は、映画自体に心地よい印象を与えている。(映画ライター・斉藤博昭)
アメリカの小さな町で出会った若者3人の12年間…『行き止まりの世界に生まれて』(公開中)
この映画の舞台は米イリノイ州ロックフォード。経済的に衰退したこの町では、犯罪が多発し、子どもたちは近親者の暴力にさらされる。その“行き止まりの世界”で出会った若者3人の12年間にわたる軌跡をたどったドキュメンタリーだ。本作の監督でもある中国系のビン・リュー、白人のザック、アフリカ系のキアー。スケートボードが共通の趣味で、共に滑り、転び、痛みも喜びも分かち合った彼らが、大人になって厳しい現実に直面する姿が映し出されていく。極めてパーソナルな作品なのだが、昔を懐かしみ、傷をなめ合ったりするセンチメンタルな内容ではない。撮影中に判明する衝撃の事実、意外な告白、切実な感情の発露が刻み込まれ、実に生々しい青春ドキュメンタリーとなった。愛おしい記憶のようにきらめくスケボーシーンの過去、迷いと不安に覆われた現在、そしてかすかな希望を感じさせる未来の可能性に胸を締めつけられる一作だ。(映画ライター・高橋諭治)
世界中で愛されたエンタテイナーの軌跡…『パヴァロッティ 太陽のテノール』(公開中)
オペラと言えば、なじみのない人にとっては格式が高く、どこかとっつきにくいイメージがあるかもしれない。私もそんな一人だったが、ドキュメンタリー『パヴァロッティ 太陽のテノール』を観て、その偏見は払拭された。2007年に亡くなった、“神の声”を持つと称されるイタリアのオペラ歌手、ルチアーノ・パヴァロッティ。本作は過去のパフォーマンス映像や親交のあった23人へのインタビューを通して、彼の人間性に迫っていく。ジャンルを超えて、U2などロックミュージシャンともコラボし、チャリティ活動にも熱心に取り組んだパヴァロッティ。伝統を重んじるオペラ界からそんな姿勢を批判されたりもするが、それでも世界中で愛されたのは、分け隔てなく誰とでも接し、サービス精神も豊富な人間的な器の大きさなのだと実感する。『トゥーランドット』の「誰も寝てはならぬ」など、たとえタイトルは知らなくても聞いたことがある名曲を歌ったパフォーマンスも全編に収められ、その力強く美しい歌声に圧倒されてしまう。(編集スタッフ・平尾嘉浩)
週末に映画を観たいけれど、どの作品を選べばいいかわからない…という人は、ぜひこのレビューを参考にお気に入りの1本を見つけてみて!
構成/トライワークス