蒼井優らが『スパイの妻』でヴェネチア行き断念も「私たちは渡れなくても、映画は行ける」
蒼井優主演、黒沢清監督作『スパイの妻』(10月16日公開)が、9月2日に開幕した第77回ヴェネチア国際映画祭コンペティション部門に選出。9月9日に、映画祭の会場であるイタリアのヴェネチアとオンライン中継で繋いだ記者会見がスペースFS汐留で開催され、蒼井、共演の高橋一生、黒沢清監督が登壇した。
新型コロナウイルスの影響で、キャストと監督の現地入りは果たせなかったが、9月9日22時(現地時間)からのワールドプレミア上映に先立ち、3人は現地記者との質疑応答をしたあと、日本人記者からの質問にも答えた。
蒼井は「行けなかったのが残念です。自分たちが手塩にかけて作った映画が、ヴェネチア映画祭のお客さんの目に触れるという緊張感も含めての映画祭ですが、そこに行けないんだなということを実感するとともに、私たちは渡れなくても、映画は行けるんだという喜びをどうにかかみしめて、今日を過ごしたいと思います」と語った。
コンペティション部門ということで、本作が世界に誇れる点について尋ねられた3人。
黒沢監督は「ここにいる2人の俳優が、世界に誇れることは間違いないと思います。僕から、いかにすばらしいかを説明するのは野暮だと思いますが、声がとにかくすばらしい。遠くにいても、場面に映ってなくても、存在感が伝わってくる。強烈な魅力を持った2人だと思います」と蒼井と高橋のコンビを絶賛した。
初めて黒沢組に参加した高橋は「僕は、優劣よりも、作品が目指しているテーマだったり、どういったメッセージを伝えられるかに注力したいと常々思っています」とキッパリ言ったあと「黒沢さんも蒼井さんも、ご一緒できて良かったなと。勉強になりつつも、すごく刺激された方たちで、終わってほしくないくらい素晴らしい時間を過ごさせてもらいました」と2人に感謝した。
蒼井も「自分がなにか言うのもおこがましいくらい尊敬しているお二方」としながら「とはいえコンペに出ているわけですが、それは、優劣ではなくて好みの問題なので」としたうえで「2年前に、私は塚本晋也監督の『斬、』でヴェネチア(国際映画祭)に連れて行っていただいて、『ROMA/ローマ』とかと競ったわけですが、ああいうすばらしい映画と同じ場所で観ていただけるんだ!と思ったんです。その時、映画を作る喜びをもっともっと高いところで考えることを忘れないでいさせていただけると思ったので、こういう世界の基準に目を向けさせてもらえることには、とても感謝してます」と感慨深い表情を見せた。
また、蒼井は本作について「私は黒沢組に長く滞在するのが目標だったので、自分のなかでとても大きかったです。また、相手役が一生さんで、自分の反省するところがたくさんあって、勉強になったし、いまだにもうちょっとこういうふうになりたいというものを、お芝居を始めた時と同じくらい感じた時間でした。そういうものを映画に出られる限り、これからもどうにか還元していきたいです」と熱い想いを口にした。
高橋も本作がワールドプレミア上映されることについて「非常に有意義な時間を過ごさせていただきました。いまから、皆さんのお目に触れることが、とても感慨深くうれしいことだと思っています」と喜びを語った。
取材・文/山崎伸子