ロサンゼルス近郊で『TENET テネット』渋滞!ノーラン夫妻がプライベートで観に行った映画は?
アメリカで9月3日に初日を迎えた『TENET テネット』だが、映画館の営業許可が下りていないロサンゼルス郡ではしばらく本編を観ることができなかった。しかし先週末にワーナーがロサンゼルス近郊の5か所のドライブイン・シアターでの公開を決め、そしてカリフォルニア州はロサンゼルス郡に隣接するオレンジ郡の映画館の再開を許可した。ようやく今週からロサンゼルスの住民も『TENET テネット』を鑑賞できるようになった。
ドライブイン・シアターは日暮れ後のみの営業、さらにロサンゼルス中心部から最も近いパラマウント市にあるドライブイン・シアターは、現地でしかチケットを購入できない。というわけで、夕方からは夜19:50からの上映に合わせ車が殺到する、“『TENET テネット』渋滞”が起きているそうだ。ロサンゼルス在住の映画ジャーナリスト、アン・トンプソンも渋滞に巻き込まれた一人。
一方、『TENET テネット』のクリストファー・ノーラン監督と彼の作品のプロデューサーを務める妻のエマ・トーマスは、ロサンゼルス市より車で1時間の距離にあるオレンジ郡アーバイン市の映画館に2週にわたり訪れたそうだ。REGALシネマズのツイッターに、マスクをしたノーラン監督らの写真がアップされている。
ノーラン夫妻は『TENET テネット』の舞台挨拶や宣伝で映画館を訪れたのではなく、観客として足を運んでいる。2人が鑑賞したのは、ソニー・ピクチャーズ配給でセレーナ・ゴメスが製作総指揮を務める新作映画『The Broken Hearts Gallery』。ドラマ「ゴシップ・ガール」や「グレイズ・アナトミー」の脚本を手がけたナタリー・クリンスキーの初監督作で、20代の男女の恋愛が赤裸々に描かれるロマンティック・コメディ。この映画をノーラン夫妻が鑑賞しているという事実も、とても良いエピソードだ。
先週は、サーチライト・ピクチャーズの『The Personal History of David Copperfield』(アーマンド・イアヌッチ監督)を鑑賞していたそうだ。今作では、『スラムドッグ$ミリオネア』(08)や『LION/ライオン〜25年目のただいま〜』(16)のデーヴ・パテルが、チャールズ・ディケンズの自伝的作品の主人公・デイヴィッド・コパフィールドを演じている。
ノーラン監督は今年3月20日、コロナウイルス対策によって閉鎖を余儀なくされた映画館に向けたエールをワシントンポスト紙に寄稿している。寄稿文の中で議会に対し映画館を含む娯楽産業への支援を提言し、人々に映画館の存続を支えることを訴えかけた。
「人々が映画について考えるとき、まずはスターやスタジオなどの魅惑的な部分に思いを馳せるだろう。だが、映画産業は地方の劇場でポップコーンを売る人、技術者、チケットのもぎり、映画を買い付ける人、映画の広告を売る人、トイレを掃除する人など、それら全ての人々によって支えられている。ほとんどの従業員は月給ではなく時給で働き、我々の生活の中で最も廉価で民主的に人々が集える場所を提供してくれているのだ」と映画産業に従事する人々を労い、熱の入った文書をこう結んでいた。「(自宅待機中の)ここ数週間は、人生には映画に行くことよりもはるかに重要なことが起きると思い知らされた。映画館に行くことで得られるものはそれほど大きくないかもしれない。この危機が過ぎさったとき、人々が場を共にすることの必要性を、そして(映画を)一緒に観て、愛して、笑って、泣く体験はこれまで以上に力強いものになるだろう。映画体験への渇望は募り、新しい作品が公開されると、地域経済を後押しし大きな貢献を与える可能性がある」。
映画館が再開した週に真っ先に駆けつけたのは、映画館を愛するクリストファー・ノーランの有言実行だったのだ。
文/平井伊都子