オトナも泣ける「クレヨンしんちゃん」の作り方!京極尚彦監督、久野遥子が明かす『ラクガキングダム』に込めた想い
「ポスターデザインでは、しんちゃんのいい意味での“幼稚園児っぽさ”を意識しました」(久野)
――久野さんが描かれた、これまでのシリーズとはテイストが違うポスタービジュアルがSNSなどでも話題になっていますね。監督からはなにかオーダーされたのでしょうか。
京極「僕からはなにも言っていないと思います。本作は冒険活劇なので、それが伝わるようにしたいとはポスターに限らず常々言っていましたが、構図やレイアウト自体は『久野さんだから大丈夫です!』とお任せでした(笑)」
久野「ありがとうございます(笑)。しんちゃんを描かせていただいた経験が少ないので、皆さんが思い浮かべる“しんちゃん”像と差異が出過ぎないように気を付けました。本作は、『映画クレヨンしんちゃん』の原点回帰的な部分があると感じていたので、初期の劇場ポスターで私がかわいいと思っていた、いい意味での“幼稚園児っぽさ”、あまり能動的ではなく表情もどこかぼーっとしているニュアンスを残すように意識しました」
――ポスタービジュアルにも絶妙なポーズのぶりぶりざえもんが描かれていますが、どんなことを意識されましたか。
久野「今回21年ぶりに映画で活躍するということですから、ぶりぶりざえもんが初めましてのお子さんもいらっしゃると思うので、私が子どものころに見ていた印象とズレないように、パーソナリティを感じられるように描くことを心掛けました。ポスタービジュアルの制作は監督がおっしゃるように自由にやらせていただいたので、『普段とちょっと違うね』とおもしろがっていただけたらうれしいですね」
「実際にお子さんが描いたラクガキを3DCGで動かすことによって、すごく説得力が増しました」(京極)
――本作では、オープニングから手描きのラクガキが3DCGで縦横無尽に動き回っていたり、作画の面でもこれまでと異なる印象があります。
京極「いつもの『映画クレヨンしんちゃん』はクレイアニメーションで始まりますが、『ラクガキングダム』というタイトルなのだからラクガキから始まらないわけにはいかないだろうと自分のなかでは決めていました。冒頭にラクガキたちを出すことによって、自分のやりたいことが表現できたと思います」
――劇中に登場するラクガキたちは、実際に春日部のお子さんたちが描かれたものだそうですね。
京極「はい、もっと広く募集することも考えたのですが、すべて出してあげられなくなると可哀想なので、今回は春日部に住む皆さんに協力していただきました。実際にお子さんが描いたラクガキのエネルギーを取り込むことが出来て、作品にすごく説得力が増したと思います。3DCGのラクガキたちがあふれている空間を作りこむことができて、作品自体の個性にもつながったと思います」
「大群衆が躍動するクライマックスの作画は、シンエイ動画以外には頼めないです」(京極)
――京極監督は、2Dと3DCGを併用した「ラブライブ!」、3DCGのみで描かれた「宝石の国」など、作品によって2Dや3DCGと使い分けていらっしゃいますが、演出するにあたり違いはありますか。
京極「あまり違いは意識していないですね。僕はもともと3DCGからアニメ制作に携わっているので、立体的に動いているほうが当たり前だったんです。逆に2Dでは『ここでカメラを回り込ませたいけど、作画でやるのは難しいな』と思ったり。ですが、『しんちゃん』の場合は立体的に動かしたい時には、背景ごと動かして描くという荒技を皆さんやられるので(笑)、3DCGは前面に押し出してはいませんが、画面が映える様に効果的に使用しました。本作のクライマックスには、荒天から晴天に変わっていく過程で大群衆が音楽と合わせて躍動するエネルギッシュなシーンがあるのですが、あの作画はシンエイ動画さん以外には頼めないですね。自分でも『酷い絵コンテ描くな~』って思っていましたけど(笑)」
――京極監督の作品では常々、女性キャラクターの描き方にいやらしさを感じず健康的な印象を受けます。今回は『しんちゃん』ということでちょっとした下ネタも出てきますが、それすらもとてもチャーミングに感じました。演出のバランスなどで意識してらっしゃったことを教えてください。
京極「しんちゃんは皆から愛されているキャラクターなので、ズボンを脱いでもあまり不愉快に感じる人はいないと思うんです。それに関してはこれまでのシリーズを担当された方々が積み上げられてこられたものが大きいと思っています。むしろ、しんちゃんにはもっと見せてほしいと感じている人もいるのでは?(笑)。僕自身のことで言うと、『シティーハンター』などのこだま兼嗣監督のもとにいたので、女性がみても不快に感じないような下ネタの描き方を教わってきたことが、いますごく役に立っていると感じます」
――久野さんは、京極監督の演出についてどうご覧になっていますか。
久野「『宝石の国』のような作品をアニメにする場合、普通のアプローチだと陰の部分を強調したくなると思うのですが、京極監督が手掛けると陽の部分もクローズアップされます。『宝石の国』では性別のない宝石同士の関係性が爽やかで素敵でしたが、本作でもしんちゃんとラクガキの“勇者”たちとの関係性が、見ていて気持ちよいなと感じました」