“ホアキン版ジョーカー”を抑えて男優賞を受賞した、『マーティン・エデン』ルカ・マリネッリの魅力

コラム

“ホアキン版ジョーカー”を抑えて男優賞を受賞した、『マーティン・エデン』ルカ・マリネッリの魅力

貧しい労働者階級の青年が文学に目覚め、作家を目指す姿を描く『マーティン・エデン』(公開中)。本作で主演を務めたのは、イタリアはローマ出身の俳優、ルカ・マリネッリ。独学で底辺から高みへ上り詰めようとする主人公を熱演し、2019年のヴェネチア国際映画祭にて『ジョーカー』(19)のホアキン・フェニックスを抑えて、見事男優賞に選ばれた。これからの活躍にも期待がかかるマリネッリの魅力と共に本作を紹介したい。

文学に目覚める労働者階級の青年、マーティン・エデンを演じる
文学に目覚める労働者階級の青年、マーティン・エデンを演じる[c]2019 AVVENTUROSA – IBC MOVIE- SHELLAC SUD -BR -ARTE

『鋼鉄ジーグ』の悪役や不死身の戦士役で注目を集める

1984年生まれのマリネッリは、父と叔母が声優という俳優一家で育ち、自身も当初は映画の吹替えで活動をスタートさせた。2010年にパオロ・ジョルダーニ原作の『素数たちの孤独』で主役を務めたことで注目を集め、名匠パオロ・ソレンティーノ監督の『グレート・ビューティー 追憶のローマ』(13)に出演した際は、ベルリン国際映画祭において欧州出身の期待の若手俳優に与えられる「シューティング・スター賞」を受賞した。

日本でマリネッリの名前が知られるようになった作品として挙げられるのが、『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』(15)。永井豪原作の「鋼鉄ジーグ」にインスパイアされたSFアクションで、マリネッリは不死身の肉体を手に入れた主人公に執着する悪役のジンガロ役で登場。見栄っ張りで潔癖症というクセの強い役柄で、ルックスは良いのに内から滲み出る小物感がなんとも言えない。また、今年の7月に配信されたNetflix映画『オールド・ガード』では、主演のシャーリーズ・セロンと共に(今度は)不死身の戦士役で出演。十字軍遠征の時代から生きているという設定で、どこか浮世絵離れしたような達観した佇まいが印象的だ。

『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』やNetflix映画『オールド・ガード』に出演してきたルカ・マリネッリ
『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』やNetflix映画『オールド・ガード』に出演してきたルカ・マリネッリ写真:SPLASH/アフロ

無学な青年の文学への目覚めを表現し、ヴェネチア国際映画祭男優賞を受賞

そんな実力派として活躍してきたマリネッリの最新作が『マーティン・エデン』。ハリソン・フォード主演でも映画化された「野性の呼び声」などで知られるアメリカ人作家のジャック・ロンドンの小説が原作で、舞台は20世紀初頭のアメリカ西海岸オークランドから、イタリアのナポリへ移された。

一心不乱に書き続けるマーティン
一心不乱に書き続けるマーティン[c]2019 AVVENTUROSA – IBC MOVIE- SHELLAC SUD -BR -ARTE

貧しい船乗りのマーティン(マリネッリ)は、ある日、ブルジョワの娘エレナ(ジェシカ・クレッシー)に恋したことがきっかけで、文学の世界に目覚め、独学で作家を志すようになる。学のない彼に対し、周囲は嘲笑するが、それでもマーティンは一心不乱に書き続け、夢に向かって突き進む。しかし、出版社へ応募した原稿はことごとく不採用で、生活は困窮し、想い人エレナからの理解も得られないでいた。

マーティンは作家として成功するも、そこにあるのは虚しさだった…
マーティンは作家として成功するも、そこにあるのは虚しさだった…[c]2019 AVVENTUROSA – IBC MOVIE- SHELLAC SUD -BR -ARTE

撮影前に監督のピエトロ・マルチェロとともに、ナポリの街を歩き回り、そこに暮らす人々の息づかいや生活を、その身に染み込ませることから役作りを始めたというマリネッリ。初めて体感した文学の素晴らしさに目を輝かせ、次々と本を読み漁り、タイプライターを購入して自身で執筆まで始めてしまう青年の純粋さを自然体で表現している。一方で、作品が評価されないことへの焦りや苛立ち、成功を収めたあとに待ち受ける虚無感なども、目に映る疲れやあきらめ、体全体から漂う哀愁からも伝わってくる。

【写真を見る】ホアキン・フェニックスを抑えて、ヴェネチア国際映画祭の男優賞を受賞したルカ・マリネッリ
【写真を見る】ホアキン・フェニックスを抑えて、ヴェネチア国際映画祭の男優賞を受賞したルカ・マリネッリ写真:SPLASH/アフロ

着実にキャリアを積み重ね、本作で大きくステップアップしたルカ・マリネッリ。イタリアの人気コミック原作、マルコ&アントニオ・マネッティ兄弟が手掛けたクライム映画『Diabolik』に主演することも決定している。世界が注目する卓越した演技力を堪能してほしい。

文/平尾嘉浩(トライワークス)

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