『浅田家!』中野量太監督「映画は人生を豊かにできるもの」原点や原動力を明かす
『湯を沸かすほどの熱い愛』(16)、『長いお別れ』(19)など家族をテーマにした映画を作り続けている中野量太監督。二宮和也を主演に迎えた『浅田家!』(10月2日公開)では、実話をもとに、3.11という題材も交えた人間ドラマに挑んでいる。日本映画界においていまもっとも注目を浴びる一人となった中野監督だが、自身の大きな転機としてあげるのが、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭だ。「SKIPがなければ、僕はいまここにいない」と語る中野監督が、これまでの自身の歩みやSKIPシティ国際Dシネマ映画祭への想いと共に、最新作『浅田家!』で描かれる写真家・浅田政志との共通点などを明かした。
「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭は、いろいろなことを教えてくれた」
1973年生まれ、日本映画学校出身の中野監督が大きく羽ばたくきっかけとなった、第9回SKIPシティ国際Dシネマ映画祭。幼いころに別れた父との再会のために、姉妹が旅へ出かける『チチを撮りに』で、日本人監督として初となる監督賞を受賞した。
「もう40歳も目前という年齢でしたが、それまでプロになれなくて、借金をしてまで勝負に出て作り上げたのが『チチを撮りに』です。海外にも通用する映画を撮りたくて、海外の映画祭に出品していたのですが、まったく審査を通らなくて。そんな時にSKIPシティ国際Dシネマ映画祭というものがあると、偶然に見つけました。“受賞作品は劇場公開される”とあったので、『これしかない!』と思って、応募しました。応募番号は2番だったようで、それくらい前のめりでしたね」と述懐。
そこで監督賞を受賞したことで、人生の歯車が大きく動きだす。「海外の審査員の方が『チチを撮りに』を気に入ってくださって、海外のセールスエージェントを紹介してくれたんです。それをきっかけにベルリン国際映画祭に正式招待していただいたり、各国の映画祭を回って、様々な賞をいただいたりすることができました。同時に国内での劇場公開も叶い、公開劇場となった新宿武蔵野館には、最終的に場内に入りきれないくらいの方が来てくれたんですよ。さらに『チチを撮りに』を観て『オリジナルでなにかやろう』と声をかけてくださった方もいて、それが『湯を沸かすほどの熱い愛』のプロデューサーなんです」とみるみるうちに道が開けていったことを明かす。
「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭に応募していなかったら、ただただ借金まみれで、いまごろ『映画なんてクソだ!』と言っていたかもしれませんね」と大きな笑顔を見せる中野監督。「国際映画祭って、外からも映画や人が入って来るので、いろいろな世界を見ることができる。そして作り手としては、自分の映画が世界へと羽ばたくチャンスもくれる。SKIPシティは、きちんとした審査員も揃えているし、“外から受け入れること”、“外へと出すこと”の両方をきちんとやっている映画祭だと感じます。さらに舞台挨拶に立つと、映画好きの人たちだけではなくて、地元の方々もたくさん観に来ていることがわかる。上映環境もいいから、自分の映画なのに『こんな音もあったんだ!』というような音まで聞こえてくるなど、とても刺激的でした」と感謝しきりだ。
「オンライン開催の決断に拍手を送りたい」
今年のSKIPシティ国際Dシネマ映画祭は、新型コロナウイルス拡大の影響を受けて、オンラインでの開催となる。中野監督は「本来ならば、作品だけでなく、それを作った映画人たちも世界中からやって来て、直接彼らの話を聞く機会が生まれることこそ、映画祭の醍醐味。しかし今年は海外から人を招くことができず、作品だけをオンラインで上映する。それはとても苦しい判断だったと思います」と映画祭主催者に心を寄せ、「ただ、それでもやるんだと決意したことに意味がある。中止にせずに、オンラインでもやるんだと決断したことに拍手を送りたいし、応援したい」と力を込める。
中野監督もコロナ禍において、様々な想いが芽生えたという。“緊急事態”をテーマに、日本を代表する5組の監督とキャストが集ったオムニバス映画『緊急事態宣言』にも参加したが、「周りのみんなも仕事がなくなっていきました。なにかお金を生みださなければいけないと思っていたころに、『緊急事態宣言』のお話をいただいて。いまできることをやらなければと思い、参加しました。やってみて痛感したのは、リモートでドラマを作りだす難しさ。やはり、人と人とが触れ合わないと、ドラマは生まれない。触れ合った先にドキッとする感情や喜びが生まれるんだと思います。コロナ禍を経て、改めて触れ合うことのすばらしさを知った気がします」。