『浅田家!』中野量太監督が明かす「エンターテインメントの中で東日本大震災に向き合う意味」

インタビュー

『浅田家!』中野量太監督が明かす「エンターテインメントの中で東日本大震災に向き合う意味」

【写真を見る】二宮和也が実在の写真家、浅田政志を演じる
【写真を見る】二宮和也が実在の写真家、浅田政志を演じる[c]2020「浅田家!」製作委員会

「前から『東日本大震災と向き合わなきゃ』と思っていた」

映画の原案は『浅田家』ともう一冊、『アルバムのチカラ』(赤々舎刊)。2011年、東日本大震災の津波で流され、汚れてしまった写真を洗浄し、元の持ち主に返すボランティア活動を自ら経験した浅田氏が約2年間にわたって追ったもので、後半部では「写真とは何か?」という大きなテーマも浮上してくる。

「2016年の熊本地震の時もニュースで写真洗浄について報道していましたが、被災地で見つかる写真はここ10年より前のものばかりだそうで、なぜかというと皆さん、データを紙にプリントしていないんです。つまり、デジタルなデータと紙に焼いた写真は全く別物なんですね。被災地では、紙に焼いた写真だったからこそ、救い出された。僕らは携帯電話の中にたくさんデータ映像を保存しているけれども、見返すことは稀で、それらはもしかしたら、写真ではないのかもしれない。被災された方々の多くが『写真を探してほしい』とおっしゃるのは必然的で、人間は“自分の過去”を失うと土台がなくなってしまうんですよ。写真とはその大切な記憶を補完し、思い出させてくれる役割もあるんだなあって今回、映画を撮りながら改めて強く感じました」

被災地に舞台を移し、先にボランティア活動をしていた青年役、菅田将暉が姿を現すや、二宮和也にも新たなスイッチが入り、さらに画面の吸引力が上がる。そして終盤には小学校の下駄箱からの(目を見張る)1カット撮影などが盛り込まれ、映画的な趣向も随所に凝らされている。

「前から『東日本大震災と向き合わなきゃ』と思っていたのですが、僕の性分としてやるならば必ずやエンターテインメントにしたかったんです。それは『おもしろおかしく』という意味ではなく、映画として楽しんでいただきつつ、何かを感じてもらい、家まで持って帰れるものをつくりたかった。でも“3.11”で試みるのは難しく、時間ばかり経過してゆく中、この企画と出会い、ユニークな浅田さんを通せばできるのではないかとやっと光明を掴みました。いざ、踏み出してみるとやはり迷いはありましたけど、シナリオハンティングで東北へと取材に行き、現地の皆さんが、心に苦しみを背負いながらも前を向いている姿を見て、『この人たちに届けよう』と決意が固くなりました。小学校の下駄箱の長回しのシーンはCGではなく、超アナログの人力で挑んだんですよね。カメラの後ろに何十人…美術部からヘアメイクさんまで全員をかき集めて担当を決め、靴を入れ替えたり、張り紙を貼り直したりと、てんやわんやで何回もチャレンジして成功させました。これをCGで済ませてしまったら味気ない。スタッフたちのカツドウ屋の血が騒いだというか、みんな、そういうことが元来好きなんです」
 
さて主人公の政志は、専門学校での「一枚の写真で自分を表現せよ」との課題が“人生のターニングポイント”となる。このムチャぶりのような問いに、プロとして中野監督も対峙していた。

「ホント、一本一本が勝負なんですよね。毎回、『これが最後の1本かもしれない』という気持ちで作品に臨んでいます」

取材・文/轟夕起夫

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