食欲の秋に!茶碗蒸し、牡蠣料理など『みをつくし料理帖』を彩る江戸時代の絶品和食
『犬神家の一族』(76)や『セーラー服と機関銃』(81)など、1970〜1980年代を中心に活躍したプロデューサー、角川春樹が10年ぶりに監督した『みをつくし料理帖』(公開中)。 高田郁のベストセラー時代小説を原作としたこの人間ドラマで、登場人物たちの心を温めるもう一つの主役として輝いているのが料理の数々だ。
暮らし向きは違えどまるで姉妹のように仲の良い幼なじみだったが、大坂を襲った大洪水により生き別れてしまった澪と野江。それから10年、澪(松本穂香)は江戸の町で料理人となり、一方、野江(奈緒)は吉原の遊郭で幻の花魁”あさひ太夫”と名乗っていた。離ればなれになっていた二人だが、澪が苦心して生みだしたある料理がふたたび二人を引き寄せていく…。
化け物稲荷をきれいにしたことを見込まれた澪が働くことになるのが、種市(石坂浩二)が神田明神下御台所町で営む蕎麦屋のつる家だ。亡くなった種市の愛娘に因んで名付けられたこの店の蕎麦は、つなぎに自然薯を用いており、むちむちした触感が江戸っ子に好評だ。
そんなつる家で働きだした澪が3か月後に初めて作らせてもらえたのが、牡蠣の味噌仕立て。鍋肌に塗りつけた白味噌と出汁の味が、太った牡蠣にほどよくしみた一品は、見た目からしてとにかく美味しそうだが、江戸の客には「せっかくの深川牡蠣を」と不評。そんななか、小松原(窪塚洋介)だけは 「おもしろい」と食べてくれる。
また、船形にした昆布に牡蠣を並べて網に乗せ、火にかけたあと酒を振りかけ、蒸し焼きにする”牡蠣の宝船”という料理も登場。「料理処 つる家」の門出を祝った贅沢な一品だ。
種市から店を任された澪が、ついに完成させた出汁を用いて最初に作ったのが茶碗蒸しだ。大坂時代、両親のいない澪を拾ってくれた芳(若村麻由美)が女将を務めた天満一兆庵でも人気だったこの一品。写真でも伝わってくるようなトロトロの見た目が食欲をそそる。玉子を使わない江戸の茶碗蒸ししか知らない客は夢見心地になり、料理番付にも載るなど評判となっていく。
また、あさひ太夫のために故郷を偲ぶ料理をこしらえる澪。俵型のにぎり飯や砂糖を使わない“巻き焼き”という玉子焼き、おぼろ昆布など、江戸の料理人には思いつかないような思い出の味を弁当に詰めていく。
さらに、満開の梅がこぼれたように見えるため“こぼれ梅”と呼ばれ、大坂の女性や子どものおやつにと好まれていたというみりんのしぼり粕は、澪自らあさひ太夫に食べさせようとするなど、料理が二人の仲をつないでいく。
これら以外にも、心太や玉子の黄身の味噌漬けである鼈甲珠などスクリーンを彩る上品な和食は、料理評論家の服部幸應が監修しており、どれも本格的で見た目も鮮やか。”食欲の秋”にうってつけの本作を観たあとは、お腹が空いてしまうこと間違いなしだ。
※高田郁の「高」ははしごだか
文/トライワークス