マーティン・スコセッシから新鋭に引き継がれた…伝説のロックバンド『ザ・バンド』の記憶

コラム

マーティン・スコセッシから新鋭に引き継がれた…伝説のロックバンド『ザ・バンド』の記憶

スコセッシの助言を受け、物語性を重要視した構成に

ザ・バンド かつて僕らは兄弟だった』にはラスト・ワルツの模様やスコセッシの取り組みも収められているが、本作の監督を務めたのは、おもにドキュメンタリー作品で活躍し、当時24歳で候補に挙がったカナダの新鋭ダニエル・ロアーだった。世代ではないが、両親の影響でザ・バンドの音楽に触れていたロアーは、ロバートソンの音楽に対する見識の深さ、作品に対する情熱を持っていた。一方で、スコセッシの参加には気おくれする部分もあったそうで、「映像を少し見て、メモを渡してくれた。僕のような若い監督にとってはちょっと怖かったけど、彼(スコセッシ)としても、特別な作品に仕上げてほしかったんだと思う」と、当時を振り返っている。

「物語こそが心を動かし、感情を揺さぶるものであると彼は考えていた。だから、『そこからそれる内容は考え直した方がいい』と助言された」とも説明し、映画を進めるために音楽をうまく使うことも指摘されたそうだ。

ザ・バンドへの熱い思いを持ち、当時24歳ながら監督を務めたダニエル・ロアー
ザ・バンドへの熱い思いを持ち、当時24歳ながら監督を務めたダニエル・ロアー[c]Robbie Documentary Productions Inc. 2019

ザ・バンドが辿った道を追体験できるエモーショナルな映像世界

これらの大先輩からのアドバイスも受けながらロアーは、貴重なアーカイブ映像や写真、ロバートソンやスコセッシを含む関係者へのインタビューなどを交え、ザ・バンドが辿った道を追体験できるものとして本作を完成させた。特にラスト・ワルツのステージで、南北戦争時代を背景に同じ国民であるはずの北軍と戦い、敗北し傷ついた南軍兵士の気持ちを綴った「オールド・ディキシー・ダウン」を歌うヘルムたちの姿を映すクライマックスでは、ここまでの幸福や苦悩の思い出が駆け巡り、観客の心に訴えかけるエモーショナルな映像に仕上がっている。

伝説のロックバンド、ザ・バンドが辿ったきらめきと悲哀に満ちた物語をひも解く『ザ・バンド かつて僕らは兄弟だった』
伝説のロックバンド、ザ・バンドが辿ったきらめきと悲哀に満ちた物語をひも解く『ザ・バンド かつて僕らは兄弟だった』[c]Robbie Documentary Productions Inc. 2019

バンド解散後もそれぞれがソロで活動し、1983年にはロバートソン以外のメンバーで再結成もされたが、86年にマニュエルが自殺し、99年にダンコも他界したことで活動休止に。しかし、94年にロックの殿堂入りを果たし、2008年にはグラミー賞の功労賞も送られている。親友であり、“兄弟”だったはずのザ・バンドは、いかにして解散の道を選んだのか?せつなくも輝きに満ちたその記憶を、スクリーンで確かめてほしい。

文/平尾嘉浩(トライワークス)

■『ザ・バンド かつて僕らは兄弟だった』予告編

■『ラスト・ワルツ』予告編

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