トランプ大統領が痛烈批判した野心作『ザ・ハント』まで…社会派スリラーの雄「ブラムハウス」の軌跡をプレイバック
現代アメリカ社会を象徴する、富裕層と庶民の対立や陰謀論に着想を得て、さらにはSNS上にはびこるヘイト発言を“人間狩り”に置き換えて過激に風刺。その内容が大きな物議をかもし、トランプ大統領がTwitterで痛烈にバッシングをするなど、一時は公開中止に追い込まれた野心作『ザ・ハント』が公開中だ。
本作を生みだした、映画プロデューサーのジェイソン・ブラム率いる製作会社「ブラムハウス・プロダクション」は、2000年の創設以来予算を抑えながらも質の高い快作を立て続けに発表。ハリウッドに新しい映画製作スタイルを持ち込むと同時に、コアな映画ファンのみならず界中の幅広い観客を魅了してきた。そんな“いまもっとも新作の公開が待ち望まれるスタジオ”の一つである「ブラムハウス」が、これまでに手掛けた傑作揃いのフィルモグラフィを一挙に紹介していきたい。
「ブラムハウス」の名を一躍世に知らしめたのは、撮影期間7日、予算約160万円ながら全世界で興行収入約2億ドルの大ヒットを記録した『パラノーマル・アクティビティ』(07)だ。固定カメラに映り込む超常現象をテーマに、その恐怖描写に往年のホラーファンもうならせた本作は、日本でも社会現象を巻き起こした。シリーズ累計全世界興収は8億9000万ドルを突破し、2022年には第7弾の製作が決定するなど、まさに「ブラムハウス」の看板とも言える作品に。
その後も予算を抑え、興行的なリスクを軽減した環境を徹底して作りだしたことで、才能豊かな気鋭クリエイターたちが次々に挑戦的な作品を仕上げていくという好循環が生まれる。「インシディアス」シリーズのようなホラー作品はもちろん、『ゲット・アウト』(17)や『アス』(19)、「パージ」シリーズのような社会問題に鋭く切り込む“社会派スリラー”。そしてなかなかヒット作に恵まれずにいたM.ナイト・シャマラン監督は「ブラムハウス」で手掛けた『スプリット』(17)で華麗なる復活を遂げたことも忘れてはならない。
ホラーやスリラー映画といったジャンル映画のイメージが定着しているが、ブラムの慧眼と手腕はそれだけにとどまらない。後に『ラ・ラ・ランド』(16)でアカデミー賞受賞監督となるデイミアン・チャゼル監督の出世作『セッション』(14)や、スパイク・リー監督の『ブラック・クランズマン』(19)も実は「ブラムハウス」の作品で、どちらもアカデミー賞作品賞にノミネートされ、前者は3部門を受賞。後者も脚色賞に輝き、前年に脚本賞を受賞した『ゲット・アウト』につづいて2年連続でオスカーを獲得する偉業を達成。そのクオリティの高さはまさに折り紙付きだ。
ほかにもシリーズ化された「ハッピー・デス・デイ」やイーライ・ロス監督の『グリーン・インフェルノ』(13)などの衝撃作、さらにはジョン・カーペンター監督の名作ホラーの続編として注目を集めた『ハロウィン』(18)や往年の名作ホラーを現代風にアレンジした『透明人間』(20)など話題作が次々と公開。そして満を持して公開されるのが、この問題作『ザ・ハント』だ。
「ブラムハウス」作品に刺激を受けたデイモン・リンデロフとニック・キューズが脚本を執筆し、それを読んだブラムが映画化を熱望したことで実現した本作は、セレブが娯楽目的で一般市民を狩る“マナーゲート”と呼ばれる「人間狩り計画」に巻き込まれていく12人の男女の姿を描く。「映画というものはエキサイティングであるべきだし、感情に訴えるもので、オリジナル性を持つことが、映画自体の内容と同じくらい重要なんだ」と語るブラムは、「『ザ・ハント』はそのすべてを兼ね備えている。最高に盛り上がる映画だよ」と自信たっぷり。
はたして本作ではどれほどの衝撃が待ち構えているのか…。残忍なバイオレンス描写と容赦ないモラル破壊の表現を覚悟したうえで劇場に足を運び、その目でとくと確かめてほしい。
文/久保田 和馬