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是枝裕和監督、映画祭のあり方と映画の未来について語った5000字。「批判ではなく期待」

インタビュー

是枝裕和監督、映画祭のあり方と映画の未来について語った5000字。「批判ではなく期待」

「映画祭に参加した監督たちが集えるラウンジを」

「アジア交流ラウンジ」では11月1日(日)から8日間にわたってトークセッションが行われる
「アジア交流ラウンジ」では11月1日(日)から8日間にわたってトークセッションが行われる

「前向きな提言をしたつもりなのに、“辛辣な批判”って書かれる。自分では率直なだけだと思っているけど(笑)、まるくして言っても誰にも伝わらないし、それじゃあ変わっていかない」と語る是枝監督。東京国際映画祭に限らず、日本の映画界全体について意見を述べると、いつも“見出し重視”で発言の過激な部分だけ切り取って報道されてしまうことに憤りを湛える。
「だから、いままでの人にも『変える意思が見られない』って直接言うようにしていたわけで。でも言い続けますよ、責任があるので」。批判には責任が伴う。是枝監督にはその覚悟があるから、経験に基づいた率直な意見を呈し続け、今年の東京国際映画祭では「アジア交流ラウンジ」の企画プロデュースに関わることにした。

「5年前に東京国際映画祭のディレクター・ジェネラルを務めていた椎名さん(保、現公益財団法人ユニジャパン副理事長)に『なにが間違っているか』を羅列した手紙を渡した時に真摯に受け止めてくれて、映画祭に参加した監督たちが集えるラウンジを作ってくれたんです。映画祭の根本的なことは変わらなかったけど、その想いがあったからディレクターが変わるごとに同じことを言い続けて。これは交流ラウンジだから、例えばアメリカの作家が来て日本の監督とトークするのでも全然構わないし、本来はそういう広がりを持つべきだと思うけど、まずは僕らがアジアの一員であるっていう意識を持つこともすごく大事だと思うんです。ヴェネチア国際映画祭で、ヨーロッパの各映画祭のトップたちが壇上に登って、このパンデミックをどう乗り越えていくかを話し合い、結束して見せた。あれがすごく羨ましくて、本来ならばああいうことを東京国際映画祭の場でアジアの映画祭と連帯していけるのが理想。映画祭は、政治に従属するのではなく、映画と映画人が、政治と政治家ができないことをやってみせるというのがとても大事だと思ってます」。

「アジア交流ラウンジ」では台湾のホアン・シー監督と対談
「アジア交流ラウンジ」では台湾のホアン・シー監督と対談Photo courtesy of Taipei Golden Horse Film Festival Executive Committee

11月1日から11月8日にかけて、オンラインでアジアと日本の映画人によるトークシリーズを開催する。是枝監督は事務局と共に人選に携わり、自らも台湾のホアン・シー監督と対談、そして韓国のキム・ボラ監督と女優の橋本愛によるトークのモデレーターとして登壇する。
「(人選は、)いま誰を呼ぶとおもしろいか、誰と誰を組み合わせたら刺激的かっていうことを考えつつ、楽しい作業でした。ホアン・シー監督とは初めてちゃんとお話をするんだけど、とにかく『台北暮色』がすばらしかったので。台北の街が美しく映されていて、主人公の女の子から目が離せなかった。キム・ボラ監督の『はちどり』も、あの主人公の女の子を撮るんだっていう監督の意思が伝わってきて。橋本愛さんに対談相手をお願いしたのは、なんとなく橋本さんはキム・ボラ監督の映画に出ていても不思議ではない雰囲気があるから」。

シンポジウム『映画の未来と配信』を語る

そして、11月4日には特別セッション『映画の未来と配信』で、ここ数年世界の映画祭が議論してきた問題を話し合う。
「全部オンラインだと盛り上がりに欠けるので、日本在住の方々に集まっていただいて、『映画の未来と配信』をテーマにパネルディスカッションをやります。映画祭って本来は『そもそも映画とはなんなのか』っていうことをずっと考える場じゃない?配信作品をコンペに入れるかどうかでカンヌとヴェネチアは意見が分かれていて、単純に業界のしがらみではなくこれからの映画を私たちはどう考えるかっていう問題提起になれば。本来であれば、東京国際映画祭は映画というものをいまこう考えているというのが、作品のセレクションから伝わるのが映画祭の哲学の一番美しい提示方法なんだけど、それができるまでには相当時間がかかるから、まずは作り手やプロデューサーや監督がそれを語ってみようかと考えています」。

シンポジウムでは「映画の未来と配信」について映画人たちと語り合う
シンポジウムでは「映画の未来と配信」について映画人たちと語り合う

映画の未来と配信。この問題は是枝監督ら作り手だけでなく、観客一人一人にも深く関係してくる。現在の日本映画が置かれている状況を直視して問題の所在を明らかにし、さらに世界の動きを知ったうえで、考えていかなくてはいけない。

「僕は個人的には映画は映画館で観たいなと思っているし、映画館で観て欲しいなって思う人間だけど、このコロナ禍で映画館に行けない間に一番見ていたのは、配信のドラマだった。アメリカでもそうだと思うけど、配信のほうが予算もあるし、自由がきく。作り手に権利も残る。もう、日本で映画を作っていても、使える予算など限界が見えちゃってるんですよ。どんどん圧縮されていく道しか残ってなくて、日本では自分で企画発案して脚本を書いているのに権利配分がほとんど認められてない。興行収入から数パーセントを企画者に戻すべきいうことをずっと言い続けて、やっとようやくなんです。お金の流れの健全化に業界全体で取り組んで変えていかないと作り手は必ず配信に流れるでしょう?唯一、劇場を優先するっていうある種の価値観さえ捨てれば、多分そっちのほうが作りたいものが作れるっていう状況ができちゃってる。そんななかで、『映画は映画館で観るもの』と言っている日本の映画産業が、どこまで作り手のことを、そして何より観客のことを視野に入れながらその発言をしてるのかっていうことを、観客の皆さんにも、身にしみて感じてほしい」。

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